マイナス金利が蝕む自治体の資金調達能力─相次ぐ住民参加型「公募債」中止
マイナス金利が影響、発行取りやめは将来の資金調達ノウハウに影響の懸念も
しかし、今般のマイナス金利政策が大きな影響を及ぼし、地方自治体はミニ公募債を発行することが苦しくなってしまいました。 2017年度にミニ公募債を発行したのは29団体・発行総額362億円まで減少。来年度は、さらに数が減ると想定されています。 「個人向け国債は、下限金利が0.05%に設定されています。そのため、どんなに低金利になっても0.05%の利率が保証されています。一方、地方債にはそうした下限金利の設定がありません。地方自治体が公募債を発行して市場から資金を調達するには、国債の0.05%を上回る金利を設定しなければなりません」(青木さん)。 しかし、いまだに金利が上昇する見通しは立っていないので、0.05%以上の利率を設定することは困難です。「そうした事情から、地方自治体は無理をして市場から資金を調達する必要はないと判断し、ミニ公募債の発行を取りやめているのです」(青木さん)。 地方自治体はいくつもの資金調達手段を有しているので、ミニ公募債の発行を取り止めてもすぐに財政が逼迫することはありません。ただ「ミニ公募債を定期的に発行することで、地方自治体は資金調達のノウハウを蓄積してきました」といいます。 「いったん発行をやめてしまうと、それらが引き継がれなくなります。資金調達のノウハウがなければ、将来的に資金調達で困るケースが出てくる可能性があります。それだけに、地方自治体にはミニ公募債の発行を続けてほしいと思っているのですが……」と、青木さんは公募債の取り止めが相次いでいることを残念がります。 地方債で調達される資金は、地方自治体にとって安定的な財源です。インフラ整備や長期的な視点に立った政策に債券による資金調達は欠かせません。また、市民がミニ公募債を買うことで、行政への参加意識を高める効果もあったのです。 マイナス金利による弊害は、行政を資金面で蝕み、私たちの生活水準を低下させる危険性があります。債券を購入しない人にとっても、決して他人事ではないのです。 小川裕夫=フリーランスライター