「猫エイズ」&骨に異常がないのに歩けない…野良猫”縁蔵”が「自分の居場所」を見つけるまで
逃げ出した猫が自分で戻った
そんな縁蔵を保護した翌日、坂上さんと妹さんは、脱肛のようなものを見つける。 「懇意にしている動物病院で診察を受けたところ、脱肛ではなく睾丸と包皮が腫れて炎症を起こしているとのこと。同時に、馬尾(ばび)症候群ともわかりました。 腰から尾の辺りの細い神経を馬尾神経といい、その馬尾神経や周囲の血管が圧迫されることで、さまざまな症状を起こすことを馬尾症候群と呼ぶそうです。 改善の可能性はゼロではないと聞き、炎症が落ち着いた後は、ステロイドを投与し、リハビリを行うことに。体調のいい日は手からフードを食べることもできるようにも。 ただ、片後脚は曲げることができますが、もう一方はピンと張ったまま。また、日によっては痺れと痛みがあるようで、全く動けない日はご機嫌ななめでシャーッとひっかいたりします(笑)。 まっすぐに歩くことはできるようになったものの、それ以上は、なかなか良くならなくて」 そんな中でも、縁蔵と坂上さん家族との絆はぐんぐんと深まっていった。 「一度、不自由なカラダでありながら縁蔵ハウスから駐車場内で逃げだしてしまったことがあったのですが、1日後に自分でハウスに戻ってきました。ここが自分の家だと認識したのだと思います。 毎日声をかけながら献身的にお世話をしていた妹は、心が通じていたんだ! と本当に喜んでいました」 リハビリと前後して、12月末には去勢手術も受けた。 「後脚が不自由で下半身を引きずりながら移動するので、睾丸がいつも地面に擦っている状態でしたが、手術により炎症も落ち着きました」
猫の楽園と呼ばれる保護施設へ
その後、縁蔵のお世話をする坂上さんの妹は、「馬尾症候群が鍼治療でよくなったケースがある」という情報を得て、鍼治療を行う「中野ペットクリニック」の鈴木朝久先生を探し出し、坂上さんと一緒に縁蔵を連れていく。 「意外にも縁蔵はおとなしく治療されていました(笑)。鍼の効果はてきめんで、1回目の治療後に左脚を使って動けるように! また2回目の治療後には、腰が以前より上るようになり、片脚を動かしながら歩くことができるようになりました。しかもものすごく早く移動できるのです。右脚は上手く動かせませんが、落ちていた腰が上げられるようになるなんてものすごい進歩です」 数ヶ月の鍼治療のおかげで腰が立ち、左脚は曲がるようになり、平地やほんの少しの段差ならば走れるようになるまでに回復した。 「動けるようになり、それまで垂れ流し状態だったトイレ問題も解決しました!」 そして、坂上さんは縁蔵の未来を改めて考えた。 「ここで暮らしてもつまらないよね、風や土、緑を感じて生活したいよねと考えていた時に、まっさきに思い浮かんだのが、私たちが猫の楽園と呼ぶ保護施設でした。 愛さんという方が代表を務め、僧侶である塩田妙玄さんと共に運営されている施設で、ワタデキとは連携を取っており、施設の様子もよく理解しています。ここなら必ず縁蔵が気に入ると思いました」