【この冬、佐渡へ旅したい】佐渡の美食を支える農園を訪問
世界農業遺産にも認定され、海の幸、大地の稔、森の恵みに満ちた新潟県・佐渡島。今回は佐渡で出会った、美味しい一皿を支える生産者の物語をお届けする 【写真】佐渡の美食をハント!
《BUY》「カルム農園」 “雑草”とともに夢を紡ぐ開拓者
羽を広げたようなフォルムの佐渡島は、左上を大佐渡、右下を小佐渡と呼ぶ。カルム農園は、小佐渡の西南に位置する羽茂(はもち)という海を見下ろす山間の地で2020年に開墾した。佐渡⽜の糞の堆肥や牡蠣殻、籾殻燻炭など、佐渡の資源を利用しながら地道に土づくりから取り組んでいる。 農園の主は、神戸から移住した梶原由恵さんだ。北の孤島で、たった一人で自然と向き合いながら手の届く範囲、地に足のついた農業を目指している。 そのきっかけは、30代で体調の変化から食を見直したこと。「食べるものが体を作っていますから。安心、安全で元気の出る農作物を一人でもたくさんの方へ届けたい」と語る。 見学させていただいた畑は、作物よりも雑草の存在が際立っていた。そのことを伺うと「雑草は土を助けてくれる存在。干ばつから畑を守り、梅雨どきには水を吸い上げてくれ、海風の強いこの土地では風除けにもなる」と、もはや同志のように雑草を讃える。
「一人で手掛ける農業には収穫量に限界がある」ということから、次に梶原さんがトライしたのはオリジナルのスパイス作り。ニンニクや柚子、山椒から青じそ、蜜柑まで。 佐渡の大地が育んだ香り高いスパイスは、佐渡のレストラン「LA PAGODE」でも使われるほか、佐渡のショコラティエとのコラボレーションを果たすなど、この地で食の豊かさを求める人々の点と点とを結んでいる。 そんな梶原さんの夢は、自らが経験してきた農業の喜びを体験してもらえる施設をつくること。その手始めとして、この冬にはスパイス作りのワークショップも行う直販所をオープンする予定だという。 取材に訪れた頃、移動する先々の道すがらには、金色のセイタカアワダチソウが群生していた。ふと、この花は来年も再来年も、同じ時季に佐渡の晩秋を彩るのだと思った。自然とはその繰り返しなのだと。軽トラックを笑顔で逞しく乗りこなす梶原さんに見送られながら、この田畑に変わらぬ実りがもたらされることを願った。 住所:新潟県佐渡市羽茂小泊(地内) 電話:090-2280-5825 BY TAKAKO KABASAWA ※取材した2023年秋時点の情報です。 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。