「平時のつながり」「障がい者も一緒の視点」が大切 「アゴラ23」シンポで大地震への備えのあり方議論
首都直下地震は首都圏の直下を震源とする大地震で、30年以内に70%程度の確率で起きるとされている。内閣府の被害想定(2013年度時点)では、約17万5000棟の家屋が全壊し、建物倒壊だけでも最大1万1000人が死亡するとされる。経済的損失も莫大で建物被害のほか、生産・サービス低下による被害を加えると95兆円にも及ぶと試算されている。想像するだけでも恐ろしい被害想定だ。
渡辺教授はこうした被害想定を念頭に、昼夜間の人口差や飽和状態の主要ターミナルの実態、交流サイト(SNS)情報の急速な流布といった現在都市が抱える社会経済的背景を考慮する必要があると強調した。「個人としても、企業や行政機関としても、大地震ではどんなことが起きるか、そのリスクを認識し、対応の限界を知ることが求められる」。平時、つまり日常生活や社会経済活動でリスクのアンテナの感度を高くすることが今、何より求められているという。
「一人も取り残さない防災」に多くの課題
災害時に自力で避難できない人は避難が遅れがちだ。東日本大震災で障がい者の死亡率は住民全体の約2倍だったという調査がある。障がいを持った人はより大きな被害を受け、結果として取り残されたことになる。大きな災害時は健常者も、誰もが混乱しがちだ。さまざまな障がいを持つ人や高齢者は避難時も介護が必要となる。
災害救助法では、障がいがある人や高齢者など、避難が困難な人の情報を市町村が事前に収集し、災害時の救援活動に活用することが定められている。しかし、東日本大震災では多くの困難が伴った。ライフラインが断絶し、自治体の建物なども壊滅的被害を受けた。データなども流出、消失して救援活動は機能停止に陥ったところが多かった。
聴覚に障がいがある人は防災無線や避難を呼びかけるアナウンスが聞こえにくい。視覚に障がいがある人や車いす使用者にとって自力で迅速に行動するのは容易ではない。
災害対策基本法では、国、都道府県、市町村は国民の生命、財産を災害から保護する使命があり、平時から防災に万全の備えをすることが求められている。災害時には救助、救援活動が機動的に行われなければならない。