逮捕・実刑判決をくらった元法務大臣は、なぜ塀の中で獄中日記を書き続けたのか?
■ 「もうこれは離婚をされても何をされてもしかたないと思いました」 河井:私がお金を差し上げたことによって、多くの方々にご迷惑をおかけしましたが、「案里さんが最大の被害者かもしれないね」と言ってくださる後援会の方々もいます。 そういうことで、本当に言葉に尽くせぬ迷惑をかけ、妻を傷つけてしまい、今だから言いますけれど、もうこれは離婚をされても何をされてもしかたないと思いました。 結婚式で「妻を幸せにする」と神様に誓ったのに、その反対のことをしてしまった。どういう判断をされても受け容れるしかないと思ったのですが、妻は「あなたを恨んだことは一度もない」と言うんです。あの人は計り知れない人ですよ、ホントに。 皮肉なことに、むしろこういうことを経験した後で、結婚してから今一番仲がいいというか、幸せだという気持ちです。 国会議員現役の時は、とにかく私は忙しかったですからね。平日は東京にいるし、しょっちゅう海外を飛び回っていました。 ──奥様も政治家としてお忙しかったですからね。 河井:妻も広島県議でしたから忙しかったですね。私は週末だけ広島に帰るのですが、地元では会合や国政報告会、支持者の皆さんとの語らいで予定がびっしりでした。ですから、家で食事をすることさえままならない状態で、妻とは少しの時間しか一緒にいられなかった。 今は、妻と東京で暮らしていますが、幸か不幸かこんなに一緒に時間を過ごせるのは結婚して初めてのことです。「本当に帰ってきてくれてよかった」と妻は毎日言ってくれます。 ──「白紙のままの色紙」と題された個所では、奥様と共に、政治家としての階段を駆け上がっていた頃と、逮捕後を比較して心境の変化について書かれています。
■ 「こんな目に遭わせやがってこの野郎」というのはない 河井:あれだけの経験をしたのですけれど、本当に人間って不思議なもので、忘れるんですね。特に私の記憶力が悪いのか、もう本当に、あんまり覚えていません。 ──あまりに大きなショックを受けると、人は記憶が飛ぶことがあるらしいですが、そういうことですか? 河井:私はそんなに上等な人間じゃありませんよ(笑)。しかし、もう過去は過去ですから。やっぱり大事なのは今ですからね。どういう人生をこれから送っていくかということが大事だと思います。 ただ、本でも少し触れましたけれど、検察の捜査のあり方については、その後、読売新聞が検察が違法な捜査をしていたことを暴露するスクープ記事を2年連続で飛ばしました。いろいろな事実が、その後、明らかになってきています(※)。 ※河井氏からカネを受け取った元広島市議に対する捜査の中で、「河井から受け取ったカネが買収目的だったと認めれば不起訴にする」という違法な司法取引を検察官が行った録音データを読売新聞が入手して報じた。 そうした点については、捜査のあり方の問題として指摘していく必要がある。でも、誰か特定の人物を恨むとか、「こんな目に遭わせやがってこの野郎」というような思いはないですね。 ──検察の捜査に関する疑問点は本書の中でも何度も指摘されています。カネを配った自分は起訴され、受け取った側は不問に付された(※)。捜査のやり方として、あまりにも不公平だと語られています。 河井:これは単に私の印象という次元の話ではなくて、私の弁護団も強く主張しました。200ページもの分厚い最終弁論で問題を指摘していただきました。 ※事件当時、河井氏からお金を受け取ったとされる100人の地方政治家らは、一度は不起訴となったが、後に検察審査会は、この内35人を起訴相当と議決した。 実際に前述の読売のスクープでは「あなたを起訴するつもりはありません」とか「あなたにはまだまだ活躍してほしい」とか「捕まえたいのは河井克行だけです」などと捜査官が話していた会話の録音まで出てきました。