電子コミック全盛のいま出版社の本音は? “無料施策”に海外展開…日本のマンガ人気を支えるのは意外にもアナログな熱量
■webtoonだけじゃないマンガ人気、海外プラットフォームにはない日本のストアの“目利き”力
そうした作品を届ける側の熱量は、マンガのグローバル展開にも影響しているようだ。グローバルといえば、ひと頃「日本のマンガはガラパゴス」「海外展開にはwebtoonじゃないと読まれない」とまことしやかに囁かれたが、その先入観にも変化があるという。 「見開きマンガを読むにはある種の読解力が必要ということもあり、10数年前まで海外では日本のマンガはニッチな存在でした。しかしアニメ配信サービスの普及に伴い、ここ数年、原作マンガの売上が世界中で飛躍的に伸びているんです。多少読みにくくても読みたいというモチベーションから、見開きマンガの読み方を“学ぶ”方も多いのではないでしょうか。もちろんwebtoonにも魅力はありますが、日本のマンガはまた別物という認識が広がっているのを感じます」(KADOKAWA グローバル電子書籍事業室 室長 栗本直彦氏) アニメをきっかけに日本のマンガを受け入れる土壌が世界に育ちつつある今、次に目指すのはボーンデジタル、つまり電子コミック発のグローバルヒットを生み出すことだ。 「アニメから原作マンガに入った層は、必ずしもそれ以外のマンガを読むわけではないという傾向が、特に海外では顕著に見て取れます。一方で電子コミックから入った層は、他のマンガにも手を伸ばす傾向にある。つまり“真のマンガ好き”に育ってくれるんです」(栗本氏) 近年、KADOKAWAではライセンスアウト(海外の出版社に翻訳や流通を任せる)だけでなく、自社で翻訳を手掛け、電子コミックとして配信するといったデジタルファーストの施策に注力している。 「当初は自社プラットフォームの『BOOK WALKER Global』でそうした取り組みを行っていましたが、次第に『Manga Plaza』(※)などの電子書籍ストアでも展開するようになりました。前述の『拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます』は、英語版も非常に好調な売上を記録しています」(栗本氏) ※コミックシーモアを運営するNTTソルマーレが展開する全米最大級のデジタルマンガストア 翻訳にしろ流通にしろ、その作品の魅力を熟知した上で手掛けたものは、海外の読者の反応もいいと手応えを語る。 「それは、電子書籍ストアさんも同様です。海外のプラットフォームは、『このマンガのどこが面白くて、どの層に刺さるのか?』など、1作1作を丁寧に売ることはしてくれません。海外の方にも伝わるのは、やはり作品への熱量と“目利き”の力。それは日本国内と同じなのです。今後はさらに『Manga Plaza』など日本の電子書籍ストアと協力を深め、ボーンデジタル作品のヒットを生み出したい。日本の豊かなマンガ文化を世界に定着させていきたいと考えています」(栗本氏) (文:児玉澄子)