電子コミック全盛のいま出版社の本音は? “無料施策”に海外展開…日本のマンガ人気を支えるのは意外にもアナログな熱量
■「お金を出して購入するもの」だったマンガ、“無料”施策への見解は?
一方で、電子書籍ストアやマンガアプリが群雄割拠する今、ユーザーにとっては「どのストアがいいのか迷う」といった声もある。こうした現状をマンガを送り出す出版社側はどのように見ているか。 「まず、読者の選択肢が増えるのは良いことだと思います。マンガの読み方も以前はコミック雑誌あるいは単行本だけだったのが、話売りや読み放題など多様になったことでマンガへの入り口は確実に広がりました。1つのプラットフォームでは多様化は実現できません。それぞれのストアやアプリが独自のアプローチでマンガの届け方を工夫されており、それによって作品へのリーチが増えるのは、出版社にとってもありがたいことです」(芦氏) 電子コミックの登場によって定着したマンガの届け方が“無料施策”だ。それまでマンガは「お金を出して購入するもの」だっただけに、出版社側として抵抗はないのだろうか。 「無料施策は、読者に未知の作家や作品と出会う機会を提供する販促手法です。その先でファンになり、購入していただければベストですが、まずは導入ハードルを下げるという意味で無料で読んでもらうことには効果があると感じています」(芦氏) ■実は出版社より電子ストアのほうが読者に近い? 熱量が生む“手書きポップ”と同じ効果 電子書籍ストアやマンガアプリには、リアルの書店以上に無数のマンガが並ぶ。どの作品が自分に合うのか読者も迷いそうだが、芦氏は「だからこそユーザーに近いストアの知見に我々も助けられている」と語る。 「たとえば無料施策を行った際に、読者が何話まで読んでどこで離脱したかといったデータまでは出版社は追い切れません。また広告についても、どの絵柄を切り出した時に最もクリックに繋がったかといった分析力は電子書籍ストアならではの知見。ある意味、出版社より“ユーザーに近い”と言えるのかもしれません」(芦氏) 近年はそうしたストアのノウハウが、マンガ作りに生かされることも増えているという。たとえば、『拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます』(KADOKAWA×コミックシーモアの協業作品)という作品では、広告映えするキャラクターの表情など、書店ならではの観点のアドバイスが随所に盛り込まれ、連載開始すぐに総合ランキング1位を記録するヒット作となったという。 「やはり、読者と作品との的確なマッチングに特に長けた電子書籍ストアは強いと感じています。データに基づくマッチングもさることながら、書店員さん自身が作品を読み込んでくださっているストアは心強いですね。たとえば『死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから』という作品は“スタッフ全力推し!!”という特集で魅力的に紹介してくださった結果、売上が9倍以上伸びました。リアル書店でも書店員さんの手書きポップからヒットに繋がる例があるように、作品を届ける側の熱量の高さは、データを超えて読者に響くのだと思います。とくにコミックシーモアさんにはそれを感じます」(芦氏)