キングダムの時代を書き残した『史記』が別格な理由は? 司馬遷の革新的な筆致
司馬遷が後世の歴史観に与えた影響
善悪は別として、司馬遷の『史記』が後世の歴史観に大きな影響を及ぼしたことは疑いえない。 われわれは、殷から西周、春秋戦国、秦、前漢という中国史の流れを当然のごとく受け入れているが、この図式を作ったのは司馬遷である。『史記』が最初の正史とされたことで、司馬遷の歴史認識が客観的な事実であるかのように、後世の読者の脳裏にも刷り込まれた。 中国のあるべき姿、中国の枠組みについても同じことが言える。東方六国の併合により天下統一を果たした秦の版図、東西に大きく拡大した前漢・武帝時代の版図を固有の領土のごとく捉える認識も、司馬遷の筆による刷り込みである。 後世のわれわれは、多分に司馬遷の手のひらの上で転がされていると言えるが、司馬遷にも悪意があったわけではなく、彼には自分の労作が長く読み継がれることを第一とした節がある。異国の庶民から愛読されようとは、思ってもいなかったであろうが。
島崎晋(歴史作家)