中村勘九郎 父・勘三郎さんを偲ぶ追善興行の舞台裏、弟・七之助との絆、ふたりの息子たちの成長を語る『中村屋ファミリー』インタビュー
勘がよく踊りも好きな勘太郎が不安で泣いていた
――長男・中村勘太郎さんは、「猿若江戸の初櫓(はつやぐら)」で、猿若を演じました。 父の十三回忌ということで、「猿若江戸の初櫓」をかけて、猿若は勘太郎で…と言って通ったけれども、いや、難しい役なんですよ。 映像で見たり、振りを教えてもらって、自分で「ああ、いけそうだな」と思って、いざ動いてみたり、台詞をしゃべってみたりすると「あれ?こんな難しい役だったの?」って。そういうのは、結構あるんですけれど、まさにそういった部類のひとつ。(勘九郎さんが23歳で演じた役を勘太郎さんが演じるのは)12歳でしょう。「大丈夫かな」と思いました。 ただね、勘太郎のいいところは、芝居が好きだっていうところ。で、芝居をよく見ている。父にも先輩にも、生で芝居を見ることが、どれだけ自分の財産になるかということを言われてきました。 彼は、芝居をよく見ているので、勘はとてもいいですし踊りも好き。ただ、今回は難しかったんでしょうね。初めてですよ、あんな不安そうな彼を見たのは。妻(俳優の前田愛さん)の話を聞くと「不安で泣いていた」って。それだけ、難しい役を与えてしまったというかね。でも、それにしっかり応えたと思います。父が見ていたら、喜んでくれたと思います。
勘太郎の連獅子に刺激を受け、長三郎もやる気満々に
――そして、次男・中村長三郎さんは「連獅子」に挑みました。 長三郎は、お兄ちゃんが「連獅子」を踊っている姿を見て、「自分も…」という気持ちが出てきたんじゃないかな。もう、やる気満々でしたね。彼の真面目さが、すごく伝わってきました。 勘太郎のときは、私も親(獅子)が初めてでしたし、自分も舞い上がっていた部分はあるんですけれども、今回はちょっと冷静になって、親獅子を勤めることができました。 この番組で密着取材してもらっていますが、視聴者のみなさまには、お兄ちゃんの勘太郎のほうが真面目に映ってますよね。長三郎のほうが、ファニーな感じに。 長三郎は、もちろんファニーな男なんですけれども、実はね、逆なんですよ。 お兄ちゃんの勘太郎のほうが、踊りもそうですけど、どちらかというと自由な発想を持っている。長三郎は、数学的に教えないと理解しない。だから、うちの父が教えやすいのは、勘太郎。うちの祖父・(七世 中村)芝翫が教えやすいのは、長三郎だと思います。 ご存知の通り、うちの父親は「やってよ。違うよ、こうやるんだよ。なんでできないんだ、違う、こうだよ」(笑)。これで、勘太郎はたぶん理解する。 祖父は「おい、右足こうかけて、左をもうちょっと内側のほうに深く引いてごらん。ほら、回れるだろ」。これを理解するのは、長三郎。 僕も、2人に教わった人間なのでね。 今、僕が教えるときに気づくわけです。 勘太郎に方程式で教えてもなかなか理解できなくて、感覚で感性で。「そう、そこでもっとマイケル・ジャクソンのように」とか言うと、わかるんです。長三郎にそれを言うと、「うん?」 となっちゃう。 本当に、おもしろいですよね。