じつは経営の苦しいEVメーカーだらけの中国! BYDだけが別格で盤石な理由は「かつてのホンダ」のような成り立ちにある
飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進を続けるBYD
世界的な電動車(EV+PHEV)販売で、中国のBYDが米国のテスラ(同社はEVのみ)を抜いて1位になったというのが、今年の話題のひとつとなった。 【写真】次のライバルはトヨタ!? BYDがインドネシアで新型ミニバンを発表 一方で、中国のEVメーカーでも、BYDのような盤石な経営状態でない企業が多くあるとの話もある。BYDの強みは、どこにあるのだろう? BYDは、1995年に深圳で創立した。当初は、バッテリーメーカーとして第一歩を踏み出している。 1990年に、米国カリフォルニア州でZEV(Zero Emission Vehicle=排ガスゼロ車)法が成立した。カリフォルニア州は、全米最大の自動車市場となる州で、輸入車が多く販売されている地域だ。当然、日本車はもちろん、欧州車なども米国への輸出の拠点となる州である。このため、たったひとつの州の法律でありながら、日本のトヨタや日産、ホンダなど主要メーカーと、欧州のメルセデス・ベンツやBMWなどは、電気自動車(EV)開発へ動いた。 同時に、電気自動車シンポジウム(EVS)の第12回大会が、ディズニーランドで開かれるなど、EVへの動きが活発化した。このとき、すでに中国からは視察団が渡米していた。その後、日本や欧州そして再び米国でEVSは開催され、その都度、中国からの視察団を目にすることになる。 つまり、30年近く前から中国はEVに注目していた。そうした背景から、まずバッテリーメーカーとして創業したのがBYDだ。 バッテリーは、EVの要である。エンジン車でいえば、エンジンに相当する重要部品だ。たとえば本田技研工業(ホンダ)は、エンジン技術で創業し、世界有数の自動車メーカーへ成長した。同じような背景を持つのが、EVではBYDといえる。 リン酸鉄を電極に使ったブレードバッテリーという独自技術を編み出し、バッテリーだけでなく電気電子部品を内製している。つまり、EVの要となる部品の技術はもちろん、量産技術と、それにともなう原価を明確に把握した企業である。中国製EVとの価格競争が取り沙汰されるが、原価を詰めるうえで正確に収支をはかれているのはBYDではないか。 中国での正式社名は、比亜迪と書く。そのうえで、BYDと名乗り、その意味は、「Bild Your Dream」とする。 日本のSONYが東京通信工業という名で創業しながらSONYを名乗って世界企業となり、ソニー製品を使う人のなかには日本企業との認識のない海外の消費者もあるのと同じように、BYDもこう名乗ることを通じ、世界の消費者にどこの国の製品であるかを問わず、手ごろな価格で満たされる性能を提供するEVという存在になりつつある。それが、欧米の関税問題を刺激したともいえる。 EVのカギを握るバッテリーに秀で、部品の内製化による原価の明確化と、社名の扱いを含めた企業戦略の全体において、成長と生き残りを視野に邁進するのがBYDの強さではないか。 戦後の日本も数多の2輪メーカーがあり淘汰された歴史がある。メグロやトーハツ(東京発動機)など、名の知られるメーカーさえ、生き残れなかったのだ。同様のことが中国のEVメーカーで起き、生き残れた企業が、じつは世界の最先端を歩む可能性さえあるのではないか。
御堀直嗣