「無料塾」創設者が語る、格差解消に必要なこと 食料支援と奨学金も実施「教福中道」こだわる訳
無料の個別指導塾、目指すのは「都立高校の合格」
子どもの貧困率は11.5%、ひとり親世帯に至っては44.5%(厚生労働省の2021年調査)となる一方、大学進学率は過去最高の57.7%を記録するなど、教育格差は広がるばかりだ。こうした中、経済的に苦しい家庭の子を支援する「無料塾」が全国に広がりつつある。その先駆け的存在である認定NPO法人八王子つばめ塾理事長の小宮位之氏に、日本の格差と教育の課題について話を聞いた。 【画像】無料の個別指導塾「八王子つばめ塾」で学ぶ生徒たち 新学期を目前にした春休みの夜。雨が降る中、八王子駅からほど近いビルの1室に人が集まってきた。その数、15名。そのうち8人が新中学3年生、1人が高校1年生で、残りの6人は彼らを教える講師だ。 ここは、創設12年目となる八王子つばめ塾(以下:つばめ塾)の八王子駅前教室。1人の講師が生徒2人を教える体制で、英語と数学の個別指導を行っている。 19時になると、つばめ塾の創設者である小宮位之氏が全員にこう呼びかけた。「では、グッドニュースから始めましょうか」。 つばめ塾では、授業を始める前に、講師と生徒がその週にあったよいことについて語り合う時間を取っている。スマホの風景写真を一緒にのぞきこみ、笑顔で話す講師と生徒もいた。その後、学習に入ると、教える側も教わる側も、真剣そのものだ。 個別指導の学習塾は今や珍しくないが、つばめ塾が一般的な学習塾と違うのは、無料であること。講師はすべてボランティアだ。この日は難関大学の学生や大手企業の会社員、薬剤師など、年代も肩書もさまざまなボランティア講師が教えていた。 「入塾条件は3つで、家庭が経済的に苦しいこと、ほかの有料塾や家庭教師に教わっていないこと、本人にここで勉強したいという意欲があること。いわば、本人のやる気が月謝なのです」と、小宮氏は言う。 つばめ塾にはこの八王子駅前教室に加えて、南大沢教室と北野教室がある。例年、約40名のボランティア講師の支援を受けて、約25名の生徒がこの3つの教室で学ぶ。どの生徒も、英語と数学を週1日ずつ受講できるようにしている。 つばめ塾には中高生が通っているが、主な塾生は中学3年生だ。生徒のニーズに合わせてボランティア講師の数を増やすことは難しく、受け入れ可能な生徒数には限りがあるため、受験生を優先している。目指すのは、都立校の合格だ。 「ここで学ぶ生徒は経済的に厳しく、都立高校の単願しか選択肢がないという子がほとんど。だから、私たちは都立高校の受験対策に重点を置いた指導をしています。内申点が決まる中学3年生の秋までは、数学と英語の成績を1つでも上げることに全力を注ぎます。数学と英語の指導に絞っているのは、積み重ねが必要で、最もニーズが高い科目だからです。12月以降は入試対策に切り替え、冬休みに理科や社会の一斉授業を実施するほか、1月には推薦入試対策として面接の練習や作文指導を行います。2023年度は19人全員が都立高校に合格しました」