青木真也が「くだらねぇなと思っちゃう」光景 8日間の地方休暇で感じた東京の異常さ【青木が斬る】
青木スタイルに“東京”は「耐えられない」
地方へ行くと孤独を感じるといった話はよく耳にする。知り合いがいない場で地元のコミュニティーになじめない不安からくる言葉だ。青木は逆で東京に常に違和感があった。 「東京に俺とコアで話せるやつがいるのかって言ったら微妙だからね。竹浦とよくしゃべるけど、彼が俺のことを分かっているのかと言えば、それは分からない。正直自分のことを理解できない人の方が多いと思いますね」 これまで連載取材終わりにはよく「このあと会食がある」と口にしていた。思い切って会食でも「異物感」があるのかとぶつけてみると「思いますよ」とにやりと笑った。 「会食もしてて『あ~』とは思うときもありますよ。俺はさ、米炊いて買ってきた魚と一緒に食べて、それでいいんですよ。鮨食ってても隣にいる人を見て『同伴か~』『2人とも金のかかってる顔してんな~』とか。くだらねぇなと思う。そういう世界観に見てきて触ってきたうえでバカにしてしまうのでしんどさはありますよね」 短パンでリュックを背負い自転車で移動する――。これが青木のスタイルだ。 「この世界観に付き合える男も女もいないと思いますよ。青木真也と一緒に大阪に泊まったとして、朝に『モーニングカルチャーだ』ってお気に入りの喫茶店の400円のモーニング食べて『いいなぁ』って言ってるおじさんに耐えられないでしょ? 競争と成長に生きている多くの人はこれに耐えられない」 青木にはこの新しいものが発売され続ける世の中で、15年間直して履き続けているシューズがある。「一緒にいろんなところを歩いてきたって歴史ですから」と東京を語る顔とは変わって穏やかな表情になった。 「カッコイイは機能とかデザインで差別化するのは難しいです。例えばペットボトルのゴミをつぶして環境に対して良いアクションを起こしているスニーカーがある。これが普通のスニーカーよりも値段が高くて5~6万円する。これを買う人って『この人は環境問題への意識がある人です』っていうおしゃれになるわけよ。できるだけ全てのものが無駄がないように過ごしていきたいよね」 さらに「競争・成長で出来る限り無駄を作ってとにかく消費していくものがいいわけじゃないですか。儲からないかもしれないけどロスがない社会にしていけたらもっと豊かになるんじゃないかなって思います」と続けた。 地方への休暇で競争社会への解像度がより上がった。一方で「もっと人受けすることをやれば仕事は取れる」の考えが抜けない自分もいる。 「競争・成長の価値観に浸かって20年。しみついた宗派を抜けるのに、いま苦しんでいるのでもっと早くこのサイクルから抜ければよかったです。『こうすれば儲かる』『こう売り上げが欲しい』って気持ちが正直あるんですよ。その考えを捨てきれない自分がいる。そこは染み付いているなと」 「東京に住所を置いちゃダメだよ。引きで見れねぇからよ」。東京で商売をしながら小笠原村に住所を置く、青木の人生の先輩の言葉だ。あのころは分からなかったが、今、心にしみている。 ◇ ◇ ◇ 一発数字を出すことをゴールにしていると“点”では盛り上がりを作れるが、それは“線”でつながっていかない。数字はあくまで手段のひとつとして、広がりを作ったあとに何をするか。中心から一歩離れて成熟することも考えたい。 □青木真也(あおき・しんや)1983年5月9日、静岡県生まれ。第8代修斗世界ミドル級王者、第2代DREAMライト級王者、第2代、6代ONEライト級王者。小学生時に柔道を始め、2002年には全日本ジュニア強化指定選手に。早稲田大在学中に総合格闘家に転向し03年にはDEEPでプロデビューした。その後は修斗、PRIDE、DREAMで活躍し、12年から現在までONEチャンピオンシップを主戦場にしている。これまでのMMA戦績は59戦48勝11敗。14年にはプロレスラーデビューもしている。文筆家としても活動しており『人間白帯 青木真也が嫌われる理由』(幻冬舎)、『空気を読んではいけない』(幻冬舎)など多数出版。メディアプラットフォーム「note」も好評で約5万人のフォロワーを抱えている。
島田将斗