安倍改造内閣「支持」の背景は? 政治学者・中野晃一教授はどうみる?【フル動画&全文】
何が問題なのか
――法的には政党間競争は許されていて、有権者は選挙で野党に投票することができる。現状は、国民の選択、「民意」なのでは。 中野:2つの大きな問題があります。一つは、メディアの争点の設定の仕方です。2012年の衆議院選挙が典型的でしたが、マスメディアはこぞって「第3極はどうなるか」と報じた。そのとき、第3の極として言われたのは、日本維新の会とみんなの党でした。 そこに注目が行くと、民主党への支持が割れ、結果的には自民党が勝って、維新の会は伸び悩んだという総括がされています。メディアが、結果的には、かなり偏って客観的な状況を伝え、第3の極をあおった。自民党との距離の近さを検証をすることなく、あおり立てた。第3の極は、本当に第3と言えたのでしょうか。 参議院選挙でも、具体的な政策についての争点を取り上げるより、「ねじれ国会が解消するか」を多くのメディアが争点として設定するという、かなり奇妙なことがあった。「決められない政治がいけない」、「ねじれは解消できるか」、と。当然、そうした争点設定は、有権者に対して一定の効果をもたらした可能性がある。「決められない政治」と「決められる政治」だったら、「決められる政治」のほうがいいじゃないか、と。そう考えた人は多いはずです。 今となっては、「決められる政治」が「決めすぎる政治」とも言われるわけですから、メディアの争点の設定に問題がないかどうか、本来はもっと議論の対象になっていいものだと思います。 もう1つ、選挙制度の歪みという問題がある。衆議院選挙においては、もちろん1票の格差の問題があります。そして、自民党の候補者の得票率は、全国的でみれば、比例では16パーセント程度しかない、つまり6人に1人ぐらいの日本人の有権者しか自民党に投票していないにもかかわらず、小選挙区制では圧勝できてしまうという状況がある。 参議院選挙では、地方区、1人区という問題がある。ここでは自民党は楽に勝てる状況で、制度として、底が上げられています(※事実上の小選挙区制である1人区で大勝すれば選挙に勝てる)。これは今回に限ったことではなく、2010年の参議院選挙もそうでした。菅総理大臣の消費税増税の発言があって民主党が負け、「ねじれ」てしまった。総得票数では民主党のほうが上回っていましたが、結果は惨敗。これも、選挙制度、地方の1人区の問題なのです。参議院は自民党が、放っておいてもある程度勝てるというシステムなのです。 メディアの争点の設定や、選挙制度の歪み。こうしたことにより、様々な争点が吸い上げられて利害の多様性が確保されるということがない。有権者は結果的に、まあ安倍さんしかいないのかな、と考える。ほかの政党もどうも頼りにならない、と。まあその通りなんですが……。いま、日本はこうした状況にあるのです。 <了> ※このインタビューは、テーマごとに5回にわけて分割した「ダイジェスト版」も掲載する予定です。
中野晃一(なかの・こういち) 1970年東京生まれ。政治学(日本政治、比較政治、政治思想)。 東京大学(哲学)および英国オックスフォード大学(哲学・政治学)卒業、米国プリンストン大学にて政治学の修士号および博士号を取得。1999年より上智大学にて教鞭をとる。著書に『戦後日本の国家保守主義―内務・自治官僚の軌跡』(岩波書店)、『集団的自衛権の何が問題か』(共著・岩波書店)、『街場の憂国会議』(共著・晶文社)など。日本再建イニシアティブ著『民主党政権失敗の検証 日本政治は何を活かすか』(中公新書)ではプロジェクト座長を務めた。