量子PC、空気と水素に電気で食べ物をつくるバイオ企業、フィンランドのスタートアップに注目する理由
空気と水素に電気で食べ物をつくる「ソーラー・フーズ(Solar Foods)」
CO2を原料としたプロテインを開発し、地球温暖化と食料危機という2つの問題を同時に解決する、という夢のような開発を行っているのがソーラー・フーズ社だ。フィンランドはSDGsの観点からオーツ麦を原料とする植物由来の肉が普及しているが、ソーラー・フーズの試みは植物すら必要としない。空気と水素に電気、そして発酵技術によるバイオプロセスのみでプロテインを生み出す。 プロテインはソレインと名付けられ、見た目は黄色っぽい粉末だ。これをアレンジすることで、様々な食品を作り出すことができる。「セルラー・アグリカルチャー」と呼ばれる新しい農業の一種で、完全なオートメーション技術により食品業界に新たな旋風を巻き起こす可能性を秘めている。 全く新しい食品製造過程であるため、販売には各国の認可を得る必要がある。世界で最初にソレインを食品として認可した国のひとつがシンガポールで、ここでは味の素社と提携した食品販売が実際に行われている。ソーラー・フーズ社と味の素は2023年に戦略的製品開発パートナーシップを結び、24年に実際の食品販売が始まった。味の素はこの結果を見てソレインが認可された国での食品開発、販売に乗り出す予定だという。 またソレインは米国でもGRAS(Generally Recognized As Safe)の評価を得ており、近い将来米国での食品開発販売にも乗り出す予定だ。2024年8月にはNASAが開催しているディープスペースフードチャレンジ第三フェーズの国際部門で選出された。宇宙空間においてクルーが吐き出すCO2が食品になる、というのは火星探索機のような長期的な宇宙滞在において魅力的な選択肢であることの証明だろう。 日本ではまだ未認可ではあるが、日本企業が積極的に関わっていることで近い将来日本でもソレインを原料とした様々な食品を目にする機会が訪れるかもしれない。
バーチャルリアリティ「Varjo」
Varjo社は産業レベルのVR、ミクスド・リアリティのハード及びソフトを製造販売する企業である。VRヘッドセットとしてはXR-4シリーズ、XR-4セキュアエディションなどがあるが、同社の優れた技術の一つがTeleportと呼ばれるスマホのみを使ってウルトラハイレゾリューションの3Dスキャンを行える、というものだ。このサービスは1カ月29.99ドルで提供される。 Varjo社のヘッドセットは産業用に開発されたもので、顧客としては防衛産業、政府系団体、宇宙関連、教育、ヘルスケア、医療、自動車関連など。ユースケースとしてはトレーニングとシミュレーション、デザインとビジュアリゼーション、リサーチ、セールスとマーケティングなどが挙げられる。 VRとミクスド・リアリティを用いることで、利用者は現実世界のデジタルツインをヘッドセット上に展開でき、そこでトレーニングを行う、遠隔地にいても同じ環境をシェアできる、などの利点がある。特に自動車業界ではトップ20の大手企業のうち16社がVarjoのシステムを採用している、という。デザインの調整を行う、デジタルプロトタイプを制作する、リモートでグローバルにデザインレビューを行う、販売において顧客にバーチャル体験を提供する、などの利用法がある。 Varjoの技術には世界中から注目が集まり、最新の投資ラウンドではNVIDIAと並んで日本の西川コミュニケーションズも投資に参加した。西川コミュニケーションズでは同社のHPでVarjo社製品の取扱を行っている。https://www.nico-cgi.jp/products/varjoxr4/index.html Varjoはフィンランドのスタートアップの中でも成長著しい企業で、フィンランドFAA(航空管制局)のフライトシミュレーションに採用された他、米空軍のオペレーションテスト・トレーニングインフラ(OTTI)基準に合致するなど、高い精度とセキュリティを実現している。つまり戦闘機のトレーニング、フライトシミュレーションとしての需要も今後高まり、あらゆる産業全体のトレーニングやR&Dのコスト削減に役立つ存在として注目を集めそうだ。
土方細秩子