ウクライナ危機で支援する日本のNGOら 必死の医療提供と、必要な周辺国への支援
調査団は基幹病院や閉鎖された映画館、大学の旧校舎などに設置された避難所を視察。JICAはもともとロシアの侵攻以前からモルドバで医療機材の提供などをしていたため、状況の把握はしやすかったという。その上で、調査団が取り組んだのが、MDS(Minimum Data Set)というシステムツールの普及だった。現場の医師が紙のカルテで避難民の外傷や疾病の種類、処置、衛生状態など簡単なチェックをしてPCに入力すると、その日のうちに集計・分析され、翌日以降の医療物資の配分などが判断できる。MDSは久保さんが座長を務めたWHOのワーキンググループが開発したものだった。 「例えば東日本大震災では、いろんな医療団体が入り乱れて、ケガが多いのか、感染症が多いのか、それがどこの場所で、地区によって違うのかなど、全容がまったくわかりませんでした。2013年にフィリピンを襲ったスーパー台風のとき、フィリピンではSPEEDという日報様式でこの情報を効率的に管理していることがわかりました。それを日本で改良したのがJ-SPEEDというシステムで、これをWHO国際標準にしたのがMDSです。2016年の熊本地震で初導入した結果、大きな実績を残し、世界中で利用が始まっています。このMDSなら、モルドバでの避難民の保健医療で役に立つと思いました」
MDSで効率的な支援
実際、MDSはすぐに効果をあげたという。ある避難所で感染症が流行しはじめると、すぐに公衆衛生チームが派遣され、感染を封じ込めた。またMDSは全体を見渡せるため、意外な事実も見えてきたと久保さんは言う。 「驚いたのは男女比です。67%が女性で、男性が3割もいました。ウクライナは国民総動員令を発令し、18~60歳の男性の出国を禁止しています。なのに、これだけ受診している男性がいる。調べると、その理由はがんや腎臓病など慢性疾患をもった患者でした。男性でも病気をもっているから避難が許されており、だからこそ、医療を必要としていたのです。さらに調べると、持病を持っているために避難所で長期停留せざるを得ない状況も浮かび上がってきました」 MDSによってどこで、どのような患者が何人診療されたかが即日可視化される。どのような医療体制を組めばよいかが検討できるようになった。