ウクライナ危機で支援する日本のNGOら 必死の医療提供と、必要な周辺国への支援
PCスキルとマネジメント能力も重要
多様な技量が求められる人道支援活動。現代の活動で重要なのは、PCのスキルや世界のさまざまな機関と適切にコミュニケーションができるマネジメント能力だと福井さんは言う。 「人道支援活動と言うと、何もないところで井戸を掘ったり、包帯を巻いたりというイメージがあるかもしれません。たしかに、調査や物資の受け渡しなどもします。でも、実際には事業調整員はPCに向き合ってリモートの会議をしたり、現地政府に申請書類を提出したり、金融機関や提携団体とやりとりしたりと事務作業のほうが多いのです」
今回の派遣で、福井さんらはポーランドに着くとまずウクライナの20ほどのNGOにインターネットを通じてアクセス。そのうち3団体から連絡があり、医薬品や食料、日用品などの支援の必要性があると把握した。PWJが支援をしたいと伝えると、3団体は現地の被害状況を伝えた上で、薬や点滴、包帯などの医薬品、食料や日用品もまだウクライナ国内で購入・調達できると返答した。そこで、PWJは最初の一カ月で緊急一時金として100万円を3団体に提供。ウクライナ国内の薬局で必要なものを購入してもらい、各地域で傷病者に提供し、食料や日用品の支援も行っているという。 PWJはその後の第2陣でウクライナの隣国、モルドバ共和国にもスタッフを派遣。医療ニーズが高いことがわかったため、4月からはモルドバで仮設診療所を設置している。
ピースウィンズ・ジャパン榛田敦行さん
医師、看護師を中心としたチームの一員としてモルドバに向かったのが、コミュニケーション部の榛田敦行さんだ。モルドバは、欧州では豊かとは言えない人口264万の小国。そこに一時期40万人もの避難民が押し寄せた。4月2日、首都キシナウに榛田さんが入った。その時の様子を振り返る。
「キシナウでは、閉鎖された映画館を一時避難所とし、そこで食料や日用品を配っており、多いときは1日500人の避難民が来ていました。当初、キシナウ市の保健担当者から『ここにメディカルポイント(仮設診療所)を開設してほしい』と要望を受けました。しかし、モルドバ政府の保健省は、別の場所がいいと意見が異なり、同じ場所で先に活動していた他国のチームを移動させていたのです。結局、WHOの仲介もあって、モルドバ保健省からも映画館での診療行為に許可が出ました。こうして4月7日、医師1人、看護師1人、通訳2人の体制で映画館の一角に仮設診療所を設置しました。その後、PWJに登録してくれている薬剤師にも来てもらいました」 診療所を開くと、身体の痛みを訴える人や、持病の薬が尽きてしまった人など1日20人以上が訪れた。過酷な避難生活とストレスで高血圧になっている人が多いこともわかった。 今回、薬剤師が工夫したのは薬の説明書だ。朝昼晩をイラスト化した処方箋を日本から持参した。イラストの横に数字を書き込めば、言葉が通じなくとも、いつ何錠飲めばいいかひと目で理解できる。避難民から喜ばれたという。 これまで南スーダンやミャンマーなどに出向いているPWJだが、今回の活動で大きかったのはインターネット環境だと前述の福井さんは言う。モルドバやポーランドだけでなく、ウクライナでも通信ができるため、同国のNGOとも緊密に連絡が取れている。