香取慎吾の持つ“影”が浮かび上がる…『日本一の最低男』が見せる疑似家族ドラマの進化
■子どもとの距離がスピーディーに近づく意味とは そんなコメディーの純度をさらに高めているのが、主人公・大森を演じる香取慎吾の存在だ。香取の魅力と言えばもちろんその快活さなのだが、それとは相反する得体のしれない狂気や闇を抱えている(のでは?)ということに、実は視聴者が気付いている。 香取慎吾の“光”は当たり前のように発揮されているのだが、今作では視聴者が気付いている“影”の部分も浮かび上がることとなり、それがタイトルにある“ニセモノ”と重なることで作品全体に奥行きを生んでいる。このキャラクターこそ、香取慎吾にしか演じることができないと言っていいだろう。 疑似家族モノに必須である子どもたちの魅力も爆発しており、初回から視聴者のハートをつかむこと間違いなし。特筆すべきは、目論見があるとはいえ、主人公と子ども(次男)との距離がかなりスピーディに近づいていく点だ。これは多くの視聴者を引き付けるためのテンポアップ戦略や、俳優陣の魅力で強引に押し切ってしまったということではなく、ちゃんと中盤以降にその意味が待ち受けているため、この点も今作がベタに陥らせない深みになっていた。 最後に香取慎吾ד疑似家族”作品として忘れてはならず、避けて通れないのが2002年放送の『人にやさしく』(フジテレビ)だろう。同作あの時代だからこそできた勢いと清々しさがあったのだが、『日本一の最低男』はさらにアップデートされ、掲げているテーマのその先も描く余地がありそうだ。 月並みだが、笑って泣ける…けれど、これまでのホームドラマとはどこか違う新しいホームドラマの誕生だ。
■ 「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平 おおいしようへい テレビの“視聴質”を独自に調査している「テレビ視聴しつ」(株式会社eight)の室長。雑誌やウェブなどにコラムを展開している。特にテレビドラマの脚本家や監督、音楽など、制作スタッフに着目したレポートを執筆しており、独自のマニアックな視点で、スタッフへのインタビューも行っている。
「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平