史上最低水準の「航空チケット」価格、なぜ過去最高水準と感じてしまうのか?(海外)
現在、アメリカにおけるインフレ調整後の航空運賃は、約30年前よりもかなりお手頃だ。 にもかかわらず、いまなお航空運賃に不満を抱いているアメリカ人は多い。 インフレ調整後の航空運賃が下落しているのにそれに気が付いていない人がいるのはなぜか専門家に尋ねた。 信じるか信じないかにかかわらず、アメリカにおける航空運賃は、30年前よりもずっと安くなっている。 米運輸統計局によると、1995年の手荷物などに関連する有料オプションサービスを除く平均的な米国の国内線運賃は292ドルだった。一方、2023年の平均運賃は、1995年より30%以上高く382ドルだった。だが、インフレ調整後の数字で見ると状況は一変する。1995年の航空運賃を2023年の実質ベースで換算すると584ドルとなり、2023年までの間に約35%下落しているのだ。 つまり、テレビや玩具の価格と同様に、航空運賃も依然よりはるかに安くなっている。だが、近年航空運賃は高額で手に負えないと答えるアメリカ人がいるもまだ事実なのだ。 「人々が、航空運賃は過去最高水準にあり、どんどん価格が上昇していると考えているのはほぼ間違いない」と航空業界の専門家で会員向け旅行サービス「ゴーイング・ドット・コム(Going.com)」の創業者スコット・キース氏はBusiness Insiderにメールで回答した。「格安航空の最盛期にあるのに、それを実感している人はほとんどいない」 過去30年で航空運賃は下落している 1995~2023年の米国の国内平均航空運賃の累積変化(2023年の実質ベース) また、デロイト(Deloitte)の運輸セクター専門家マイク・ダヘア氏は5月に発表したレポートで、「航空運賃と宿泊料金は高いと認識されており、価格が下がるのを待って、この夏は旅行を見送る人もいるだろう」と書いている。 価格が下がっているのは国内線だけではない。キース氏によれば、米国の旅行者が支払うインフレ調整後の国際線の運賃も、総じて過去10年間に下落した。 調査会社ギャラップ(Gallup)が昨年夏に米国の成人1000人超に行った調査によると、航空業界に対して否定的な意見を持つアメリカ人の割合が、2011年以降で最高に上った。理由の1つが、飛行コストに対する不満かもしれない。 連邦政府にはその自覚があったようだ。格安航空会社ジェットブルー(JetBlue)とスピリット (Spirit)との合併が航空運賃に与える影響についてバイデン政権が懸念を表明した後、2024年1月に連邦裁判所は両社の合併を差し止めた。2024年4月、米運輸省は、追加手荷物料金や予約変更手数料などの「予想外の不当な請求」から消費者を守り、年間5億ドル以上利用者の負担を軽減するとして規則を公表した。 もちろん、航空運賃に対して不満があったとしても、多くのアメリカ人が飛行機に乗るのを控えるわけではない。新型コロナウイルス感染拡大に伴う制限が緩和されたとき、米国民の累積旅行需要が航空業界に一気に押し寄せた。その勢いは継続しており、2024年5月24日に運輸保安局が実施した保安検査数は、過去最高の約300万人に達した。 だが、過去2年間にわたる実際の航空運賃の全体的な下落は、旅行者の需要がやや「低迷したようにみえる」ことのあらわれ、とロヨラ・ユニバーシティ・メリーランド(Loyola University Maryland)のケリー・タン経済学教授はBusiness Insiderにメールで回答した。「このことは、インフレ調整後の航空運賃は依然としてコロナ前より安いにもかかわらず、需要が正常化しつつあり、一部のアメリカ人は2022年のフライト価格の上昇で二の足を踏んでいることを示している」 航空業界は今後も、国民の航空運賃に対する認識に引き続き影響を受けるだろう。こうした認識が米国民のインフレおよび経済に対する意識全般に影響する限り、今秋の大統領選の争点になりかねない。 Business Insiderは航空業界の専門家へインタビューを試み、過去20年にわたりインフレ調整済みの航空運賃が下落している理由と、一部のアメリカ人にはその認識がないように見える理由を探った。