日本よりずっとヤバイ中国の介護事情「実家からの電話が怖い」「糞に始まり糞に終わる」
日本同様、急速に高齢化が進んでいる中国。老親の介護をどうするかという問題には、日本も中国も多くの人たちが頭を悩ませている。しかし日本とは違う背景で問題が深刻化している。今年、中国では「50代の大学教授が80代の認知症の母親を24時間介護している」という報道に大きな関心が寄せられた。それは、「明日は我が身」と思う人々が多かったからだ。中国の高齢化・介護問題が、日本以上に深刻な理由とは?(日中福祉プランニング代表 王 青) ● 中国で進む高齢化「老いたら子どもに 面倒を見てもらう」が成立しなくなっている 中国の高齢化が深刻な状況にある。 中国政府は10月11日、「第5回中国都市・農村高齢者生活実態サンプル調査基礎データ公報」を発表した。それによると、60歳以上の高齢者人口は2.9億人で全人口の21.1%を占め、65歳以上は2.16億人で15.4%に達している。高齢者世帯は全世帯の60%を占め、その内訳は老夫婦のみの世帯が45%、一人暮らしの高齢者世帯が14.2%となっている。現在の高齢者世帯の子どもの平均人数は2.6人だ。この調査は2000年から開始され、5年ごとに民政部、国家衛生委員会、財政部などが実施する大規模な全国調査である。 中国では従来、「3世同堂」や「4世同堂」という多世代家族での同居が一般的で、お年寄りの面倒は家族でみるものとされてきた。「養児防老」という、親が子を養い、親が老いたら子どもが面倒を見るという伝統的な考え方も根付いていた。しかし経済発展によって核家族化が進み、さらに「一人っ子政策」を長年実施したことにより、家族による介護という従来のシナリオは崩壊しつつある。
● 「介護施設へ親を入れる=親不孝」 「施設に入れられた=見捨てられた」という意識 近年、高齢者人口が急速に増加するのに伴い、介護施設が各地で急ピッチに建設され、介護サービスも多様化している。人々の考え方や意識も変わりつつあるが、それでも「親を施設に入れる」ことは「親不孝」とみられ、世間の目を気にしたり、後ろめたさを感じたりする人は今も多い。また、介護施設への不信感から「こんなところに親を送ったら、どんな目に合うか分からない、親が可哀想だ」と考える人も少なくない。 中国人特有のメンツ意識や、高齢者自身が施設に預けられることを「見捨てられた」と感じる傾向もある。また、家族間の密接な関係性から、無理をしてでも在宅介護を選ぶケースが多い。その結果、「老老介護」や「隠れ介護」が増加し、介護者が鬱になったり、日常生活が崩壊したりといった問題が続出している。 北京大学ジャーナリズム・コミュニケーション学院の胡勇教授もそうした一人だ。今年4月、「北京大学教授が24時間の介護士に」という報道が中国全土で注目を集めた。50代の胡教授が85歳の認知症の母親を24時間介護しているという話題を、マスコミもこぞって取り上げた。 胡教授は数年前に父親を亡くし、その後母親が認知症を発症。かつては「声が大きく、いつも元気」だった母親が、別人のようになってしまった。母親は排便のコントロールができず、どこでも排尿・排便してしまう時期があって、家の中はふん尿の臭いが充満していたという。「人生は糞に始まり糞に終わる」と語る胡教授。 彼の一日は、母親の着替えや痰の処理、口元を拭くことから始まり、3食の準備、洗濯、投薬管理、車いすでの散歩など、細かな介護作業で埋め尽くされている。夜遅くには母親が床に投げ捨てたものを拾い集める。そうした合間を縫って、睡眠時間を削りながら本や論文を書き、わずかな時間を見つけては自宅で妻や子供と過ごすという生活を送っている。 「体力的に限界を感じるだけではなく、幾度も精神的に崩壊する寸前となった」と胡教授は話す。そして「介護には勝者がいない」とも。 学者が自分自身の率直な体験談を世に好評したことで、多くの人々が共感し、関心が高まった。誰でも直面する問題であり「明日は我が身」だからだ。