武藤嘉紀がアギーレジャパンにもたらした“新鮮力”
圧巻は最後の3つ目の「駆け引き」だ。右サイドから相手ゴールへ迫り、左へ、左へと急旋回していく。武藤は相手キーパーの動きと心理状態を冷静沈着に把握していた。「中に切れ込んでいけば、キーパーはちょっとずつずれていく。そこでニアを狙うことは得点の形になりますからね。そこは思い切って打ちました」。スピードに乗りながら上半身を強烈に捻り、迷うことなく左足を振り抜く。FC東京ではルーキーながら「4‐3‐3システム」の左ウイングを任され、左から中央へ切れ込んでから右足で相手ゴールを射抜くパターンを十八番としつつあった。「だからこそ、逆の形で決められたのは自信になりますね。自分はどちらかと言うとコースを狙って、柔らかいボールで巻いたりするシュートは得意じゃない。とにかくふかさないことを意識して、速い弾道や低い弾道を狙っている。FC東京でもマッシモ・フィッカデンティ監督から同じことをアドバイスされてきたので、それも生きたと思います」。 後半13分から途中出場し、A代表デビューを果たした5日のウルグアイ代表との国際親善試合(札幌ドーム)でも見せ場を作り、0対2の完敗の中で満員のスタンドを沸かせていた。ゴール前へ浮き球のパスを放った瞬間に前へ走り、相手の中途半端なクリアを胸で拾ってそのまま左足を一閃。豪快な一撃は惜しくも左ポストを直撃している。 パスをしたらスペースへ向かって走り、再びパスを受ける。サッカーの大原則であり、ワールドカップ・ブラジル大会を戦ったザックジャパンの面々に欠けていた「パス・アンド・ゴー」を、現役の慶応ボーイでもある22歳のルーキーが完璧なまでに実践。ベネズエラ戦の前半を消化不良に終えた日本の攻撃陣を一気に刺激し、活性化させた。 ウルグアイ戦に続いてキャプテンを務めた本田は、武藤が加入した後半から日本代表の攻撃が変わったと代表2戦目のルーキーを絶賛する。「スピードがあるし、ルックスもフレッシュで新たなスタイルをチームにもたらしてくれる。彼の積極的なスタイルは、いままでの代表にはなかったもの。個人的にはすごく好きなタイプ」。 元日本代表MFで現在は解説者を務める水沼貴史氏も、武藤の「前へ」の姿勢を高く評価する。「試合後のコメントなどを見聞きしていると、非常に賢い選手だということがわかる。謙虚で驕ったところがなく、何でも吸収したいという貪欲な向上心が、ゴールへ向かっていくプレーに中に強く見られる。ウルグアイ戦とベネズエラ戦で共通しているのは、前へ行くという気持ちを前面に押し出しているからこそああいうボールがくるということ。思い切ってシュートを打つ度胸もいいし、自分自身を客観的に見つめられるという能力も非常に大きいと思う」。