シカの食害対策に「奥行き」ある立体柵…「飛び越えられない」認識させる
シカの食害対策には、ワイヤメッシュ(溶接金網)を使った立体柵が効果的――。岩手県盛岡農業改良普及センターが盛岡市藪川の牧草地で行っている実証実験で、そんな結果が導き出された。柵に高さだけでなく奥行きを持たせることで、シカに「跳び越えるのは困難」と認識させるのが狙いで、専門家も「視覚的な効果を使った画期的なアイデアだ」と注目している。(広瀬航太郎) 【写真】センサーカメラが捉えたシカが牧草を食べる様子(2023年11月、盛岡市で)=盛岡農業改良普及センター提供
牧草収穫量10倍に
同センターが試作した立体柵は高さ、奥行きともに1メートル。L字型に折り曲げたワイヤメッシュを組み合わせて四角状にし、結束バンドでつなぎ合わせた。昨年11月、同市藪川にある牧草地の外周約500メートルに設置したところ、今年6月に刈り取った牧草の収穫量は昨年の2倍に。9月の刈り取りでは10倍に増えた。
市内で酪農業を営む男性(38)は、この牧草地で刈り取ったイネ科の多年草「チモシー」などを、飼育する乳牛約40頭のエサとしてきた。しかし、近年は収穫量が半分になり、エサの量を減らしたり、輸入品に頼ったりしてしのいでいたという。
男性は数年前に刈り取り作業を行った際、動物に食われて長さが短い牧草があることに気付いた。周囲に落ちているフンの形状から、「シカの仕業だ」と確信。県が立体柵を設置してからは、牧草の収穫量の増加だけでなく長さもかつての30~60センチから倍近くに伸び、「他の畜産農家にもおすすめしたい。ノウハウを持った行政の支援があるとありがたい」と語る。
設置後は侵入ゼロ
県によると、昨年度のシカによる農業被害額は前年度比約3090万円減の約2億4320万円だったが、そのうち飼料作物の被害額は約8240万円に上り、作物別では唯一増加した。
立体柵の誕生は3年前。県農業普及技術課の中森忠義さん(58)が発案した。電気柵などの平面な柵による対策は知られていたが、跳躍力のあるシカに「跳び越えられない」と認識させるには、奥行きを確保することが重要だと考えたという。