<イラン報復の内幕>革命防衛隊と新大統領の激しい綱引き、イスラエルの「反撃」が焦点
イランは10月1日、イスラエルに向け、弾道ミサイル180発以上を発射した。大半はイスラエルの防空網「アイアンドーム」と米艦船に撃墜されたが、イスラエルのネタニヤフ首相は「イランは大きな過ちを犯した」と反撃を宣言し、軍事大国同士の全面戦争に拡大する恐れが高まった。イランの核施設も標的になる懸念があり、中東情勢は「ガザ戦闘1年」を前に一気に緊迫化した。
「前方抑止力」失ったイラン
イランは7月末、ペゼシュキアン新大統領の就任式に招待したガザのイスラム組織ハマスのハニヤ政治指導者が革命防衛隊の公館施設に滞在中暗殺された際、イスラエルの作戦と断じ、最高指導者のハメネイ師が報復を指示した。体面を重んじるペルシャ人にとって「客人」を殺害されたことは「恥辱」でしかなかった。レバノンの親イラン組織ヒズボラなど反米、反イスラエルを掲げる「抵抗の枢軸」の盟主としての実行力が問われた。 だが、報復は遅れた。イスラエルとハマスのガザをめぐる停戦協議が佳境に入り、米欧から強く自制を求められたことが一つの要因だった。 一方で、ネタニヤフ首相は次々に新たな要求を持ち出して難クセをつけ、協議をつぶした。イランのアラグチ外相は「米欧にだまされた」と不満をぶちまけた。 しかし、実際は同外相やペゼシュキアン大統領は報復に慎重な姿勢だった。イランへの経済制裁を解除するために、核合意の再建協議を優先したかったからだ。元々、イランの戦略はイスラエルや米国との全面戦争を回避しつつ、代理人であるレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラやイエメンの反政府組織フーシ派を「前方抑止力」として使い、中東での影響力を拡大・誇示することにある。
イランが報復を躊躇している間にネタニヤフ首相はヒズボラへの攻撃を激化させた。ハマスとの戦闘に終わりが見えたいま、新たな戦争相手が必要になった。自分が権力の座に留まるためには、事実上戦争を続行する以外にないことを十分に認識しているからだ。 ヒズボラのポケベルに仕掛けた爆弾を爆発させ、遂には指導者のナスララ師を猛爆撃で抹殺した。ヒズボラの司令官ら幹部20人も一緒に殺害した。米紙によると、イスラエルは本来、ナスララ師への攻撃日時を「10月11日」と極秘に決めていたが、同師がベイルート南郊の本部から他に移る可能性が高まったため、9月27日に急きょ実施した。 首相はさらに10月1日には軍をレバノン南部に地上侵攻させ、これまでにヒズボラの武器・弾薬の半分を破壊したという。ヒズボラは15万発に上るロケット弾やミサイルを保有していたとされる。イランはヒズボラが大打撃を被ったことで、最大の「前方抑止力」を失い、自らが直接イスラエルに報復することを強いられる事態になった。