<負けヒロインが多すぎる!>北村翔太郎監督インタビュー “影”で表現したこと 絶妙なリアリティーラインを目指す
影を駆使することで、キャラクターの存在感を丁寧に表現しようとした。細かい演出ではあるが、効果的で、キャラクターの感情が映像からダイレクトに伝わってくる。北村監督は「共感性につながる表現ですし、大変だけどこだわったところです。正直、流行らせたいという思いもちょっとあります(笑い)」と話す。
◇アニメのテンプレから少し外れているかもしれない
“色”も細部までコントロールした。例えば、第1話のラスト、学校の屋上で八奈見がちくわを頬張る名場面は、青みを強くしているという。
「キャラクターの色、特に人間の肌は赤みがあるのですが、第1話のラストシーンは、かなり青くしています。屋上は空に囲まれています。八奈見と温水が夏に飲み込まれ、背景に染められているような見せ方にしようとしました。各シーンにテーマがあって、例えば、非常階段は日陰者のたまり場をイメージして、周りの生徒たちの明るさに対して、暗くしています。各シーンの色の表現を積み重ねることで、青春のリアリティー、ありそうでない理想の学園コメディー感を出そうとしています。こんな高校生活を送りたかった……と感じるような映像にしようとしました」
テンポのよさも魅力だ。倍速で映画やアニメを見る人もいる昨今だが、「負けヒロインが多すぎる!」は情報量が多く、倍速で見ることが難しいはずだ。
「最初はもう少し遅いテンポを想定していました。青春感を出すために、キャラクターの心情を積み上げていこうとすると、どうしてもテンポが遅くなる。今の視聴者の受け止め方を考え、シリアスとコメディーのバランスを見直した結果、速くしました。原作の1巻分をアニメでは4話で制作していますが、原作は文量が多く、一つ一つをひもといていくと内容も濃いんです。速いテンポで全力疾走していく中でも、キャラクターの気持ちを積み上げるようにしています」
テンポは速いが、風景をしっかり見せるシーンもある。バランスがよく、アニメの世界に引きずり込まれるような感覚もある。