<負けヒロインが多すぎる!>北村翔太郎監督インタビュー “影”で表現したこと 絶妙なリアリティーラインを目指す
「緩急なんですよね。速いものを速いと思われてしまうと失敗だと思っています。見た後、言葉にならない感覚が残るような映像を狙っていました。もう一度、見たくなるように、過度な説明もしていません。もちろん不親切にならない程度には説明していますが、普通のアニメだったら入れているような、場所が移動しました、時間が変わりましたという段取りを極力省き、印象的なシーンを一発で見せています。第1話を見ていただくと分かると思うのですが、新しいキャラクターがどんどん出てくるけど、誰も自己紹介しないんです。アニメのテンプレから少し外れているかもしれませんが、それでも伝わるような描写を考えていました」
説明過多ではないが、情報量が多い。ただ、自然と頭に入ってくるような感覚もある。一度見ても理解できるが、見返すと新たな発見もある。いわゆる“考察がはかどる”アニメにもなっていることが、SNSでの盛り上がりにつながっているのかもしれない。北村監督をはじめとしたスタッフの細部へのこだわりによるところも大きいのだろう。
「業界の人には、すごく大変そう……と言われますね。芝居感もコメディーのためのコメディー、いわゆるラブコメアニメらしいコミカルな表現は、なるべくやらないようにしています。基本的ににぎやかで楽しい明るいコメディーですが、ふと立ち止まった時、振られてしまった女の子たちの話なので、大事なところでそこをネタにしないようにしています。負けヒロインが振られたことをギャグにしてしまうと、ただのギャグアニメになってしまうので、その部分ではコミカルな表現をなるべくしないようにする。そうすると、作画の難易度もカロリーも跳ね上がるんですけどね(笑い)。音や音楽の入れ方で表現しようとしているところもあります。例えばセミの鳴き声は、ギャグとして使っています。セミが飛び立つ音が鳴る、セミの鳴き声はピタッと止まるなど、リアルなのですが、コメディーっぽい使い方をしています。画的にも音的にも難易度が高くなるのですが」