新たに発見された遺伝子バリアント、アルツハイマー病を予防する可能性
新しい治療アプローチが効果を発揮するか否かを判断するためには、さらなる研究が求められる
さらなる絞りこみと解析の結果、その遺伝子の多くが、細胞外マトリックスの維持に関係していることがわかった。細胞外マトリックスとは、細胞間の構造を支えたりかたちづくったりするタンパク質のネットワークのことだ。 アルツハイマー病への耐性があると見られる人で最も広く存在していたのは、フィブロネクチン1と呼ばれる遺伝子の独特なバリアントだった。この遺伝子は、血液脳関門の細胞外マトリックスを支えるタンパク質をコードしている。 この遺伝子がAPOEと相互作用しているのか否か、またどのような仕組みで作用している可能性があるのかを突き止めるために、Prabesh Bhattarai(プラベシュ・バッタライ)ら研究チームは、ニューヨーク・ブレインバンクから27の脳サンプルを入手した。 血液脳関門には通常、フィブロネクチン・タンパク質はごくわずかしか存在しない。しかしアルツハイマー病では、このタンパク質量が大幅に増加するようだ。(高リスクである)APOEε4疾患関連アレルを2コピー持つ人の脳を比較したところ、疾患への耐性に関連するフィブロネクチン1遺伝子のバリアントを持つAPOEε4アレル保有者では、タンパク質の蓄積が大幅に少なく、高リスクのアレルを持たない健康な人のタンパク質量と同レベルだった。 研究チームはさらに、脳にアルツハイマー様の変性が見られるゼブラフィッシュの集団で、この知見を確認した。フィブロネクチン遺伝子をノックアウトする(取り除く)と、そのゼブラフィッシュではアミロイド斑が発達しなかった。このエビデンスは、フィブロネクチンを産生できないようにすれば、アルツハイマー病への耐性を高められる可能性があることを示唆している。 研究者たちは、アルツハイマー病においてはこのタンパク質が高いレベルで存在していることが、アミロイドの除去を妨げているのではないかと推測している。したがって、フィブロネクチンを産生できない機能喪失バリアントにより、疾患を引き起こすアミロイド斑の蓄積が妨げられ、神経変性を防止できる可能性がある。 APOEε4アレルを保有する人のうち1~3%(米国では20万人から62万人)は、アルツハイマー病を防ぐフィブロネクチン・バリアントも有している可能性があると研究チームは推測している。 血液脳関門におけるフィブロネクチン量を減らす薬剤には、アルツハイマー病の発症を遅らせて認知能力の低下を防ぐ治療法として、大きな可能性がある。一方で、APOEε4疾患関連アレルを持たない人でも、その種の新しい治療アプローチが効果を発揮するか否かを判断するためには、さらなる研究が求められる。
William A. Haseltine