生活保護引き下げを巡る裁判 原告敗訴も判決で「自民党の影響」と異例の記述 名古屋地裁
「自民党の政策の影響」は認めるが…
判決では、生活保護基準の改定にあたって社会保障審議会の検討結果を踏まえることは「通例であった」と認めながらも、「審議会等の専門家の検討を経ることを義務づける法令上の根拠は見あたら」ないとした。このため、審議会には意見を求めさえすればよく、検討結果とは違う引き下げがなされたとしても違法ではないという見解が示された。 また、デフレ調整の計算結果についても「ラスパイレス式による指数とパーシェ式による指数に異なるバイアスが生ずる」と認めながらも、国は「ロウ指数」という別の物価指数の考え方を根拠としているため、理論的根拠を欠くものとは言えないとして、原告の訴えを退けた。 さらに、判決文には厚労省が自民党の公約の影響を受けていたことを認める異例の記述があった。しかし「自民党の政策は、国民感情や国の財政事情を踏まえたもの」として、生活保護基準の引き下げに自民党の影響があったとしても違法とは言えないとした。
原告は「根拠なき“ファシズム判決”」と控訴の構え
判決後の記者会見で、全国の生存権裁判を支援する全国連絡会会長の井上英夫氏は「今回の判決は、名付けるなら“ファシズム判決”」と厳しく批判した。「多数派の感情によって物事を動かすのはファシズムそのもの。しかし、国民の最低限度の生活を決める基準が“国民感情”であってよいのか。司法の独立という面から見ても遺憾だ」と語気を強めた。 裁判では原告側が物価指数や専門家による証言など、具体的なデータを証拠として積み重ねてきた。しかし、判決では客観的な数値や専門的知見を具体的に挙げることなく「基準引き下げの判断に過誤・欠落はない」と結論づけている。国側の主張を丸ごと認めたかたちだ。 弁護団の森弘典弁護士は「判決の根拠とされた統計にも、財政事情についても具体的な根拠が示されていない。“国民感情”や“国の財政事情”といったマジックワードによって、厚労大臣の決定が何でも許されてしまう。最悪の判決であり、国民の一人としても決して許すことはできない」と、控訴を辞さない考えであると述べた。 原告らを支援している派遣社員の男性(50)は「コロナの影響で仕事が減ったり、無くなったりして生活保護を必要とする人は急激に増えている。生活保護の問題は他人事ではないと多くの人に知ってもらいたい」と語った。 (石黒好美/nameken)