生活保護基準引き下げで集団訴訟、名古屋で結審 原告ら「国民全員の問題」
生活保護費を最大1割削減した国の基準引き下げ措置の撤回を求めて、受給者ら1000人以上が国や全国の自治体を相手に起こしている「生活保護裁判」で、名古屋地裁の訴訟が27日に結審した。判決は6月に言い渡される。原告側は公判後の記者会見で、専門家も問題視する国の「強引なプロセス」をあらためて指摘しながら、「生活保護基準は国民生活の最低ライン。その引き下げは国民全員の問題だ」と理解の広がりを訴えた。 【動画】「生活保護裁判」名古屋地裁で結審 原告らが会見
国は「本来あるべき姿」などと反論
原告らが訴えるのは、厚生労働省が2013年に決定した生活保護基準の見直し。同年から15年の3年間で、生活保護費のうち日常の生活費にあたる「生活扶助」の支給額を670億円削減するとし、受給世帯によっては最大で1割の保護費が削減された。 この措置を不服として、受給者ら16人(のちに5人追加)が2014年から国や名古屋市などを訴えている名古屋地裁の訴訟では、社会保障や統計学などの専門家が原告側証人として出廷。国が引き下げの根拠とした「デフレ調整」や「ゆがみ調整」「生活扶助相当消費者物価指数(生活扶助相当CPI)」といった数値が、専門部会に諮られず適用されたり、現実と乖離した計算方法が用いられたりしていると指摘した。 これに対して、国の担当者らは「本来あるべき姿に数学的に近づけていくプロセス」だったなどと正当性を主張。憲法が定める最低限度の生活保障がされなくなったとの原告側の主張には、何が「健康で文化的な最低限度の生活」であるかは「厚生労働大臣の合目的的裁量に委ねられている」などと反論した。
判決は全国の訴訟に先駆け6月25日に
この日の最終弁論で、原告側はあらためて今回の基準引き下げによって「生活保護利用者の生活実態がより過酷になった」「いったん国民に保障された生存権の内容が後退させられ、剥奪(侵害)されようとしている」とした上で、「原告ら生活保護利用者の生活実態を真摯に受け止め、決して、財政事情等の生活外的要素を考慮することなく、公正な判断をされたい」と裁判所に求めた。 記者会見で弁護団の森弘典弁護士は、生活保護基準が住民税の非課税基準や就学援助の基準、国民健康保険料の減免基準、介護保険料や同利用料の減免基準などのさまざまな制度に連動することを強調。原告の1人は「生活保護の基準が上がるということは、日本国民全員の生活基準が上がる、みんなが今より豊かな生活ができるということ。いま政府がやっているのは、本来なら生活保護をもらえるのにもらえない人を使って、『あいつらはオレらよりいい生活をしている』とケンカさせていることだ」と痛烈に指摘した。 判決公判は6月25日で、弁護団によると全国29都道府県で起こされている生活保護裁判の中で最も早い見込みという。 (関口威人/nameken)