笑下村塾代表・たかまつなな―「笑える!」を入り口に主権者教育にまい進、「学校内民主主義」実現を目指す
「笑える!政治教育ショーin群馬」
選挙権が18歳からとなった当初は、NPO法人や教育関連機関なども「主権者教育」に取り組んだが、資金不足で休止に追い込まれている。現在も全国規模で活動を続けているのは笑下村塾だけだ。 しかし、決して順風満帆ではなかった。地方の高校へ無料で出張授業を行うこともあったため、交通費、芸人へのギャラ、教材費など費用がかさむ。自身のタレント活動や講演などの収入では賄いきれず、寄付やクラウドファンディングなどで調達してきた。 そんな中で群馬県・山本一太知事とタッグを組めたことは、より多くの子どもたちに授業を届けるまたとない機会となった。県が取り組む「教育イノベーション」の一環として、2022年7月の参議院選挙に向け、同年4月から県内の全高校 (79校)を対象に「笑える! 政治教育ショー」の出張授業を開始、その予算も組まれた。3カ月後の7月の選挙で、同県の18歳の投票率は、前回19年の参院選より8.34ポイント上昇した。 その効果に、山本知事も驚いたという。 昨年、群馬県の高校で出張授業の現場を取材した。講師役の芸人たちが、民主主義や選挙の仕組みについてコントを交えながら分かりやすく説明。若者が投票に行かなければ、政治家は若い世代に向けた政策を優先しなくなる。その結果、いかに自分たちが損をするか、クイズやゲームを通じて学んでいく。 当初、生徒たちは興味なさそうにたかまつさんや芸人たちの話を聞いていたが、次第に身を乗り出し、90分間の授業が終わるころには目を輝かせていた。 「今まで友達と政治の話はしなかったけど、ゲーム感覚で楽しく学べ、政治が身近に思えた」 「自分でも社会を変えられるかもしれないと希望が持てた」 「選挙には必ず行こうと決めた」 最後には多くの生徒からそんな声が上がり、出張授業の効果を実感できる光景だった。
主権者意識が育つ仕組み
2022年、たかまつさんは欧州を巡り、若者の政治参加の状況を取材した。日本との違いにがくぜんとしたという。 若者の投票率が8割を超えるスウェーデンの中学校では、「政治家と直接話をしたことがある人は?」の問いに、全員が手を上げた。 「選挙期間中は、駅前や街頭に“選挙小屋” が設けられ、各政党がブースを出し、政治家や党員が市民と直接対話します。学校では、実際の政党・候補者に投票する“模擬選挙”があるので、子どもたちも選挙小屋を訪れ、候補者たちに質問をぶつけていました。街頭演説が一方的に行われている日本とは大違いです」 ドイツのベルリン州では、「学校会議」が制度化されていた。会議には校長、教師、保護者代表に加え、生徒代表も参加する。そこでは授業の時間割など学校生活の多くのルールを決め、校長の選任まで行っていた。 「イギリスでもフランスでも、生徒の代表者が、他の子たちの意見を聞いた上で、学校に伝える仕組みがありました。学校側も、生徒代表の声にしっかり向き合っていました。学校内民主主義を実践しているのです」 「一般的に日本の学校では、生徒は管理すべき対象です。子どもを権利主体として捉え、その自由を尊重し、意思を反映しているか、問い直す必要があると思います」