母が亡くなり、知人から借金していることが発覚しました。知人いわく、借用書などはないようですが、口座には確かに知人の貸したお金が振り込まれていました。これは私が返さないといけないのでしょうか?
親が亡くなった後、相続財産の整理をしていると、自分の今まで気づかなかった借金の存在を知ることがあります。特に知人から借りているときには、借用書もないケースも少なくないようです。こういった場合、借金を返す必要があるのでしょうか。 ▼亡くなった母が私名義で「500万円」を遺してくれていた! 名義は自分でも「相続税」はかかる?
個人間の貸し借りは、借用書がなくても成立
今回の相談者の方は、母親が亡くなり、無事に葬儀も済ませた後で遺品整理を行ったときには、借入金があるとは思っていませんでした。 しかしある日、母親の知人だという人が訪れてきて、「母親にお金を貸しているので、その分は返してほしい」と告げたそうです。相談者は突然のことに驚きましたが、その場では即答できずに「あらためて連絡する」ということで、その日は帰ってもらいました。 相談者が母親の預金通帳を確認すると、確かに訪れた知人の名前で、貸付金と思われる振り込みがされていました。しかし借用書もなく、相談者は「果たして自分が返さなくてはいけないのか」と疑問に思ったそうです。 基本的に親子であっても、生きているときの借入金は個人に対するものなので、返済義務はありません。しかし相続が発生した場合には、不動産や預貯金などの正(プラス)の財産だけではなく、借入金など負(マイナス)の財産も相続することになります。 今回のように、個人間の貸し借りで借用書がない場合でも、金銭貸借契約は成立することになります。実際に母親の口座には貸付金が振り込まれていますので、相談者は負の財産も相続することになり、返済をしなければいけません。
返済をせずに済ませる方法は?
個人間の貸し借りは、借用書がなくても成立してしまうため、親が他界した場合には、前述したように負の財産も相続することになります。しかし、負の財産があることを知ったときに、それらを相続しない方法があります。それは、「相続放棄」と「限定承認」です。 相続放棄は、「相続すべきものを全て相続しない」という選択です。 また限定承認は、「正の財産の範囲内で、負の財産を相続する」という方法です。例えば、相続財産が1000万円あったとして、このとき負債が1500万円あれば、正の相続財産に当たる1000万円で負債を弁済し、残りの負債500万円は相続しなくてもよいことになります。 逆に正の財産が負の財産より多い場合は、正も負も全ての相続財産を相続する「単純承認」と同じように、正の財産から負債を返済して、残りを相続することになります。 ここまで見ると、相続放棄も限定承認も、負の財産が多い場合は、違いがないように感じる方もいるでしょう。しかし実際のところ、相続放棄は相続人単独でできますが、限定承認は相続人全員の合意が必要になります。 また、どうしても相続したい不動産などがある場合、相続放棄すると相続できなくなりますが、限定承認を行った場合には、競売にかけられた不動産を優先的に買い戻すことができる「先買権」があり、不動産を手元に残すことができるようになります。