経済人が考える日本の課題 財界セミナーの議論【後編】
物流の分野でもチャンギ国際空港は世界60カ国、200都市以上を結ぶ路線が乗り入れていると言われています。シンガポール港はコンテナの取扱量で世界2位。デジタル化、キャッシュレス化、スマートモビリティといった取り組みも強力に進めています。現代の成長のキーワードと言われている要素をほとんど押さえているという意味では、もっと目を向けていくべき国であり、新浪氏の危機意識もここにあると言えます。 新浪氏は日本政府に対し、シンガポールを見習い、「骨太の方針」に盛り込むよう主張したものの、受け入れられなかったと話します。欧米にしか目が向いていない実態に対し「官僚の“アホさ”、政治家の“アホさ”」といら立ちを見せていました。 ■生成AI、日本と世界が抱える3つの課題 最後は生成AI、もはやニュースで見ない、聞かない日はないというべき注目のワードです。社会を変えると言われる生成AI ですが、この分野の専門家、千葉工業大学学長でデジタルガレージの伊藤穣一取締役からは様々な問題提起がありました。 一つは、AIが人間を超えるのでないかという懸念。アメリカ、イギリスのLLM=大規模言語モデルのトップは、「10年以内に50%の確率で、インテリジェンス爆発が起きる」と話しています。つまり、人間がコントロールできないAIで出現するというのです。さらに、政府の複数の幹部は、「20~25%の確率でAIによって10年以内に人類は滅びる」とも。これを止めるために全力を果たしていると言います。 もう一つは、人材不足の問題。伊藤氏は、日本では人材不足という認識はあるものの、どういう人材が足りないのかが定義できていないと指摘します。アメリカ、イギリスでは技能のロードマップが標準化され、大学でも検証しているのに対し、日本は圧倒的に遅れているといいます。「どういう人材が何のために必要か」……企業でも役員レベルで理解している人が必要と主張しました。経営者にとっては耳の痛い話だったと思います。 そして、最も深刻なのが、電力の問題です。AIやデータセンターが費やす電力は膨大で、 アメリカでさえ一般市民の分が足りなくなる可能性が挙げられました。さらに、インドや中国では、石炭や原子力による電力でデータセンターがつくられ、脱炭素エネルギーと言っていられなくなるのではないか…そんな状況も指摘されました。