「隠れ家レストラン」が求められる今(1)客の思考
特別感が優越感に
子どもの頃にかくれんぼをしたり、秘密基地を見つけて遊んだりした経験を持つ人も少なくないだろう。密ひそかな場所を見つけると気分が高鳴る感覚は、子どもの頃に誰しもあるが、大人になっても潜在的な欲求として継続しているのかもしれない。SNSなどにより、検索すれば苦労しなくても楽に情報が得られ、世界中の人に「公開」される現代だからこそ、「自分だけ」、もしくは「限られた人だけ」が知っているということに、逆に付加価値を感じるのではないだろうか。自分だけという特別感が「優越感」につながるのだろう。
不便であることの魅力
また、利便性を追求した商品や生き方も多い中、多少不便であることが逆に魅力にもなっている。人間は、行列してから食べると、並ばないで入店した時よりも一層おいしく感じるのだという。隠れ家レストランも同様な心理なのかもしれない。
隠れ家が放つエンターテイメント
さらにエンターテイメント性にも着目したい。バブルの頃は、テーマレストランの業態が流行っていた。ジャングルや監獄をイメージした店、仕掛けのある店など、エンターテイメントレストランとも呼ばれ、飲食だけではない別の高揚感をもたせたものだった。そうした店は少なくなったものの、現代の隠れ家風レストランは、隠れ家という裏の顔の隠微な雰囲気がある種のテーマレストランであるし、店に着くまでもがすでにエンターテイメント。店の演出にもなっているのだといえそうだ。
共通認識、価値を持つ安堵感
隠れ家風の店のメリットはある程度客層が安定する安堵感にもあるのではないか。その店に縁あって“めでたく”入店できた客という段階で、ある種同一な興味を抱く人間同士である。店内の客はある種の共通認識、価値を持つ関係性だともいえる。安心しやすい空気感が流れるように思う。 隠れ家レストランは、非日常を演出していると思うのだが、客にとっては、高揚感があるが、強すぎない。安心感もあるが日常ではない緊張もある。「非日常の度合いが程よい場所」なのだと感じている。 客とっての利点ばかりを挙げたが、隠れ家レストランに課題は無いのか。また、店にとってはどうなのか。次回は店側の隠れ家レストランの利点について考えてみようと思う。 (食の総合コンサルタント 小倉朋子)
日本食糧新聞社