コロナ禍のリスクコミュニケーション 菅首相には何が足りないのか 広報の専門家に聞く
新型コロナウイルスが世界規模でまん延する中、国のリーダーの言動が注目を集めています。日本も例外ではなく、菅義偉(よしひで)首相は昨年9月の就任以来、所信表明演説やコロナ対応の記者会見、そして施政方針演説と、さまざまな場面で政府の取り組みについて語り、協力を呼びかけてきました。ただ、それに対して「作文の棒読み」「心に響かない」など国民に訴えかける力が弱いとの批判も目に付きます。こうした危機下における菅首相の対応について、広報コンサルタントの石川慶子さんに聞きました。 【会見動画】菅首相「制約ある生活をお願いせざるを得ない」緊急事態宣言を発出
●首相は国民にビジョンを示す役割
記者会見での菅首相といえば、無表情で淡々とした受け答えが印象に残ります。石川さんは「一番の課題は表情です。若い頃はキューピー(人形)みたいにキュートな顔でしたが、なるべく隙を見せないようにするためでしょうか、だんだんと表情がなくなってきました。これでは聞く人に警戒感を抱かせてしまいます」と話します。 1月18日に開会した通常国会で菅首相が行った施政方針演説では、コロナ禍収束への決意や肝いり政策の「デジタル化」と「グリーン」政策を打ち出した一方で、演台の上にある原稿を下向きがちに読んでいる姿が話題になりました。「原稿を読んでも別に構わないのですが、メッセージを発するときにすごく大事なことは、自分が一番心を込めて伝えたいところでは、ちゃんと顔を上げて聞いている人々とのアイコンタクトを試みることです」 菅首相が、体にフィットしていないスーツを着ているのも印象としてマイナスだといいます。「菅首相は毎日腹筋を100回していることもあって体は結構引き締まっているでしょうから、体にぴったり合ったスーツを着るだけで、精悍で頼りがいがあるイメージが出るのではないでしょうか。服に着られているようだと、貧相なイメージを与えてしまいます」 「リーダーにとって、表現力の豊かさはとても必要な資質」と語る石川さん。鉄壁と言われた官房長官時代の会見対応と首相のそれとは性質が違うものだと指摘します。「官房長官は危機管理を担うため、無駄のないシンプルな発言でよかったのですが、国のリーダーである首相には国民に明るいビジョンを示す役割が求められますので、豊かな表現で強くアピールする必要がありますが、現状では決定的にアピール力がない」 石川さんには、菅首相が表情や目線、服装、ゼスチャーなどの非言語コミュニケーションのトレーニングを疎かにしているように映ります。「首相になれば表現力を強化するかもしれないと思っていましたが、結局ソフトな印象の女性広報官を活用するなど自分に足りない部分を人材で補充したものの、自らを変えようとはしなかったんじゃないでしょうか」。もっとも、これは菅首相に限らず日本の政治家のほとんどがこうしたトレーニングを行わないといいます。