蚊が媒介する感染症、より一般化・重症化つつある? 臨床ウイルス学者が解説
米国で、蚊が媒介する感染症の発生が相次いでいる。北東部では東部ウマ脳炎による死亡例が、この数週間で複数報告された。米政府の新型コロナウイルス感染対策を指揮した国立アレルギー感染症研究所(NIAID)前所長のアンソニー・ファウチ博士は8月下旬、ウエストナイルウイルスに感染して入院し、いまだ養生中だ。先週には、ニューハンプシャー州の住民が東部ウマ脳炎、ウエストナイル熱、セントルイス脳炎の3種類のウイルスに陽性反応を示して入院したとの報道があった。 こうした中、多くの米国人が「蚊媒介ウイルスは増加傾向にあり、かつ重症化しているのではないか」との疑問を抱いている。 ■米国における蚊媒介感染症 蚊は、単なる厄介者とみなされがちな虫だが、実のところ地球上で最も多くの命を奪っている生き物である。マラリア、デング熱、黄熱、チクングニア熱、ジカ熱、ウエストナイル熱、東部ウマ脳炎など、命にかかわるさまざまな感染症のウイルスを媒介する。世界では、蚊に刺されることで引き起こされる病気で年間100万人以上が命を落としていると推計されている。 幸い、蚊が媒介する病気すべてが米国で風土病となっているわけではない。ただ、それも年月とともに状況が変わりつつある可能性がある。気候変動、自然開発などの人間の活動、動物の地理的分布の変化により、この10年間で蚊やダニが媒介する感染症が増加しているのだ。 現在、米国で最もありふれた蚊媒介感染症はウエストナイル熱だが、東部ウマ脳炎、デング熱、セントルイス脳炎、ジェームスタウンキャニオンウイルス(JCV)感染症、マラリアも、局地的流行がみられる。一般的に、蚊媒介感染症の発生率は北東部と中西部北部の州で高いが、テキサス州とフロリダ州ではマラリアとデング熱の感染例が多く、ウエストナイル熱は全米で報告されている。 ウイルスを保有する蚊に刺されて感染しても、大多数の人は無症状のままだ。また、発症した場合も、発熱、頭痛、悪寒、発疹、関節痛といった非特異的なインフルエンザのような症状がほとんどである。 デング熱は体の痛みや関節痛が非常に激しく「骨折熱」とも呼ばれる。ウエストナイル熱、東部ウマ脳炎、セントルイス脳炎では、まれに症状が悪化して脳炎や髄膜炎などの神経疾患に進行したり、死亡したりすることもある。