蚊が媒介する感染症、より一般化・重症化つつある? 臨床ウイルス学者が解説
ワクチンは普及していない
■ウイルスの検査方法は? 蚊媒介感染症ウイルスの検査は可能だが、主に大規模な標準検査機関や公衆衛生施設に限られる。新型コロナ感染症やインフルエンザの検査と異なり、蚊媒介ウイルスの診断には分子検査(PCRなど)は適していない。というのも、ウエストナイル熱や東部ウマ脳炎などのウイルスは血液中に存在する期間が比較的短く、医師の診察を受ける頃にはすでにPCR検査の結果が陰性になってしまう可能性があるからだ。 このため、蚊媒介ウイルス感染症の診断には、血清学的検査(抗体を用いた検査)が最も一般的だ。感染後1~2週間は、ウイルスに対する初期の免疫反応であるIgM抗体が産生される。IgM抗体は通常3~6カ月間血流に留まるため、血清検査でIgMが検出されれば最近ウイルスに感染したことが示唆される。ただし、血清検査はしばしば特異性に欠け、偽陽性や交差反応性を示す場合がある。 たとえば、ウエストナイルウイルスに感染した人は、セントルイス脳炎やデング熱のIgM検査でも陽性となりうる。これは、ウエストナイル熱、セントルイス脳炎、デング熱のウイルスがすべて同じ「フラビウイルス科」に属しているためだ。ウエストナイルウイルスに反応して産生されたIgM抗体は、フラビウイルス科の他のウイルスを診断するために設計された検査と交差反応する可能性があるのだ。 一方、体内で産生されるまでに時間がかかるものの長期的な免疫を提供するIgG抗体を検出する血清検査もある。こちらはより特異的で、IgM検査ほどの交差反応性は示さないが、IgG抗体が検出可能な濃度に達するには感染後2~3週間かかることがある。このため、蚊が媒介する急性ウイルス感染症の診断にIgG抗体ベースの血清検査を用いることには限界がある。 ■蚊媒介感染症を予防するには 残念ながら、蚊が媒介する感染症を予防するためのワクチンは普及していない。現存するのは、チクングニアウイルス、黄熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、デング熱ウイルスに対するワクチンだ。その他の蚊媒介ウイルス感染症を予防するには、蚊の繁殖場所を減らし、刺される機会を少なくすることが最善の対策となる。 蚊は水たまりに卵を産むので、古いタイヤや植木鉢の受け皿にたまった水を捨て、小鳥の水場の水も定期的に交換しよう。外出は、日の出前や夕方以降など蚊の活動が最も活発になる時間帯を避け、蚊の多い時間帯に外に出る必要がある場合は、長袖のシャツと長ズボンを着用して虫除けスプレーを使う。これらの対策を講じることで、蚊が媒介する病気から自分自身や周囲の人を守れる。蚊に刺されるリスクは気温が下がるまで続くので、用心しよう。
Matthew Binnicker