「私は油彩の描き方が分からない」──ビープルが中国で開催中の大回顧展をレビュー
アーティストが日々新たな作品を作り続けると、そこにはある価値が宿る。黒地に白抜き文字で毎日の日付を記録した河原温の日付絵画しかり、20年にわたって鳥や月、花などを、やさしい色合いで描いたアン・クレイヴンしかり。今や世界的な知名度を誇るビープルことマイク・ヴィンケルマンもまた、その系譜に連なるアーティストの1人だ。 【写真】ビープル回顧展の展示風景 NFTが脚光を浴びるようになるずっと前、2007年からビープルは毎日新作を制作し続け、なんと6420点もの作品を生み出している。最初の1年は紙に描いたドローイングもあったが、ほとんどがデジタル作品だ。2021年に制作された《Everydays: The First 5000 Days(エブリデイズ:最初の5000日)》は、それらを集めた初のNFT作品で、同年にクリスティーズのオークションで6935万ドル(当時の為替レートで約75億円)という歴史的な価格で落札されている。 一躍時代の寵児となったビープルは、中国・南京市の私設美術館である徳基美術館(Deji Art Museum)の目に留まり、同美術館はアート・バーゼル香港に出品された制作直後の《S.2122》(2023)を900万ドル(約12億円)で取得した。この作品は、メタルフレームで囲われた直方体の4面に、ディストピア的な高層建築物をアニメーションで映し出すスクリーンを取り付けたもので、ケース自体が回転するキネティックビデオ彫刻だ。《S.2122》の斬新さを考えれば、徳基美術館がビープルの個展を企画し、歴史に残るような展覧会を目指したのも不思議ではない。そして、去る11月14日、ビープル初の美術館展となる大規模な回顧展「Beeple: Tales From a Synthetic Future(ビープル:合成された未来からの物語)」が開幕した。なお、この展覧会は2026年12月末まで約2年にわたり開催される。