「私は油彩の描き方が分からない」──ビープルが中国で開催中の大回顧展をレビュー
「Everydays」初期のドローイングを油彩画にする試みも
「Everydays」シリーズには、ストリートファッションブランド「オフホワイト」のロゴやキャンベルのトマトスープ缶、スーパーマリオやガーフィールドなど、ポップカルチャーを参照した画像が数えきれないほど登場し、いわゆるIT系の若者が面白がるようなイメージや風刺と混ざり合っている。ただ、これまでにない試みはそこにはなかった。それに、17年分の作品をまとめ上げた見事な展示ではあるが、作品が次々と移り変わっていくので、1つひとつをじっくり見るのは難しい。いずれにせよ、この作品では各部分ではなく、全体にこそ価値があるようだ。 次の展示室では、ハンス・ウルリッヒ・オブリストが選んだビープルの「Everydays」シリーズのドローイング9点が、大型の油彩画になって展示されている。ただし、これらの油彩画はビープル自身の手によるものではない。事実、オープニングの後、ビープルはジャーナリストたちに、「私は油彩の描き方が分からないという事実をはっきり認めます」と語っている。 「正直なところ、自分で油彩画を描くことには興味がありません。最初からコンピュータで絵を描いていたので。つまり、コンピュータ画面で見るよりも、もう少し、立ち止まってじっくりと画像を鑑賞できるようなメディアの作品に変換したかっただけなのです。コンピュータ画面だと、ちょっと難しいと思いますから」 しかし、ビープルのデジタル作品を、油彩画のような伝統的な形式で展示するのは妥当なこととは言えない。確かに間近で観察することはできるかもしれないが、それは魂のない複製であり、かえって作品の重要性を損なってしまう。むしろ、大型の有機ELディスプレイなど用いて、9つの作品をデジタルのまま間近に体験したかった。それに加え、詳しい作品説明が英語と中国語で交互に表示されるので、読みやすかったとは言えない。 油彩画のうち最もパワフルなのは、2089年の世界で水中から生えている巨大なランを男性が調べている様子を描いた《Regenerate(再生)》(2023)だ。《Block Zero(ブロック・ゼロ)》(2022)は、ビットコインを模した巨大な建造物に向かって人が歩いている様子を描いた作品で、制作当時のデジタル通貨ブームを端的に表現している。そのほか、ジャバ・ザ・ハットの巨大な顔の目鼻や口から小さなジャバ・ザ・ハットが顔を出している《Jabbas Coming from Every Hole(あらゆる穴からジャバが出てくる)》(2021)や、ガーフィールドの頭部が点在する野原をさまよう男性を描いた《Gar-field(ガー=フィールド)》(2022)など、懐かしさとばかばかしさが入り混じった感覚を呼び起こすものもある。 一方、《S.2122》や《HUMAN ONE》、そして数えきれないほどの花々が動き続けるキネティックビデオ彫刻で、静物画の常設コレクション展へのオマージュでもある《Exponential Growth(指数関数的成長)》(2023)は、それぞれ専用のスペースに展示され、存在感を示している。これらの作品が、もともと大規模彫刻として構想されていたことを考えれば、この展示方法は納得がいく。 ビープルが、会場で鑑賞者に何かをしてほしいと願っているとすれば、それはテクノロジーが与える影響や過剰消費、イメージの氾濫、世界の不確実性、環境の悪化について考えることだろう。この展覧会が、アートとしての作品の出来不出来とは関係なく、誰かを動かして社会をより良い方向に変え、現在のディストピア的な状態を逆転させるきっかけになるのであれば、その役割は果たされたことになる。