「私は油彩の描き方が分からない」──ビープルが中国で開催中の大回顧展をレビュー
未来志向の展覧会は美術史に名を残せるのか?
「Tales from a Synthetic Future」という展覧会タイトルが示すように、この展覧会は未来志向でもある。「Digiverse(ディジヴァース)」と題された最後の展示室はデジタルアートの未来に目を向けるもので、ビープルがアート制作を始めた頃と同じ20代の若手デジタルアーティストたちの作品が集められている。印象に残ったのは、赤いバラが咲き乱れる不気味なガラス張りの温室を描いたヂァン・シャオトンのデジタル絵画、シュールな中国の都市景観を描いたフアン・へーシャンのデジタルビデオ作品《Too Rich City(豊かすぎる街)》、そして、水族館で魚たちにじっと見られる立場に置かれる人間を描いたタン・シンルイのユーモアあふれるデジタルコミックなどだ。 中国のデジタルアートの現状を伝えるとともに、次世代のビープルになる可能性のあるアーティストたちに展示の場を提供しているこのセクションは、アート界のインサイダーたちには必ずしも受け入れられないかもしれないが、一般の来場者には魅力的に映るだろう。 ビープル展の華やかなオープニングで特にいい経験になったのは、彼が11月13日に6406点目の「Everydays」作品を制作する過程がライブで見られたことだった。作業はCinema 4Dで行われ、ゲームボーイ、ヨーダ、ピカチュウ、カエルのペペなどの3Dモデルをライブラリから取り出したビープルは、それを自分の頭部の画像の下にコラージュした。そして、目の上に2つのチーズバーガーと徳基美術館のロゴを配置し、中国のヒップホップとインディーズロックのサウンドトラックを流しながら、フォトショップでデジタルイラストに油彩フィルターをかけて完成させた。 ビープルは、これまでのところアート界の既存の体制には受け入れられていない。しかしこの先、状況が変わる可能性はある。初めはアート界から拒絶された作家は少なくないからだ。たとえば、モネがフランスのサロンで落選したことは広く知られているし、ゴッホは生涯に1枚しか絵が売れなかった。アンディ・ウォーホルでさえ、ブレイクするまでに数年を要している。1956年に靴のドローイングの寄贈を申し出たときにはニューヨーク近代美術館(MoMA)に断られ、1961年には、ロイ・リキテンスタインの作品に似すぎているとしてレオ・キャステリ・ギャラリーに相手にされなかった過去がある。 ビープルは従来の意味でのアーティストではないかもしれないが、アーティストであることに変わりはない。徳基美術館で開催中のビープル展は、間違いなく次世代のアートへの入り口であり、好むと好まざるとに関わらず、美術史に名を残すことになるだろう。
ARTnews JAPAN