「ライブ×配信」に活路はあるか──“ハコの生態系”を枯らさないための取り組み【#コロナとどう暮らす】
「制作マンやブッカーは、稼ぐ方法が断たれているんですよね」。ライブハウスの休業で、多くの音楽従事者が仕事を失った。「補償なき休業」を余儀なくされたこの3カ月で、音楽の現場に何が起きたか。廃業も相次ぐライブハウスは、このまま「死んで」しまうのか。インディーズ業界に関わる二人と、ポピュラー音楽の研究者に話を聞いた。(長瀬千雅/Yahoo!ニュース 特集編集部)
数年かけて築いたものが音もなく崩れた
「連日中止中止の連絡がくるわけです。そのたびに何十万飛んだ、何十万飛んだって。しかも、区の抽選に受かって、4月から(子どもが)保育園に通うはずだったんです。妻も仕事に復帰する、これで保育料も払えるねというときに、全部飛んでいきました。3日ぐらい起き上がれませんでしたね」 矢口優太さん(35)は、海外公演を中心に、コンサートやツアーを制作する仕事をしている。提携先の依頼で日本人アーティストを海外フェスに連れていったり、海外アーティストの日本ツアーを担当したりする。ツアー中はアーティストに同行し、公演を円滑に実施するためのあらゆるサポートを担う。個人事業でやってきたのを、2017年12月に法人登記した。 「弊社にとってコロナは、株価で言う『二番底』だったんですよ」 矢口さんの提携先は台湾、香港、中国本土などのアジア地域と、北米およびメキシコにある。中でも主力の香港は、民主化デモの激化により、昨年10月ごろから次々に公演が開催できなくなった。
それでも、香港のプロモーターといくつかのプロジェクトを進めていた。その一つが、日本の音楽グループ「Play.Goose」のアジアツアー(台湾と香港の2都市)だった。しかし、「安全が確保できない」という理由で、1月11日に予定していた香港公演が直前で中止になった。 落ち込んだが、そのときはまだ前向きになれた。香港のプロモーターが契約したアメリカのロックバンド「DIIV(ダイヴ)」のアジアツアーの日本公演を任されることになっていたし、日本のロックバンド「ALL OFF」が3月に香港でワンマンライブを開催する話も進んでいた。 そこへ襲ったのが新型コロナウイルスだった。1月初旬に打ち合わせで香港を訪れたとき、「中国本土で新しい病気が発生しているらしい」と耳にした。 「もうすぐ旧正月で、たくさんの人が移動するからちょっと怖いよねという話をしていたんです」 振り返れば、すでに新しい病気=新型コロナウイルス感染症は国境を越えていた。香港だけでなく、台湾や日本国内でも、ライブやフェスが次々に中止もしくは延期になっていった。不安ばかりが募る中、2月下旬に日本政府が大規模イベントの開催見直しを要請する。同じころ、矢口さんのもとに、香港から「提携していたライブハウスが閉店する」という知らせが届いた。矢口さんは「さすがに病みそうになった」と言う。 「金銭的な不安もありますが、数年かけて築き上げた会社と事業が音もなく崩れていくのがショックで。やっと形になった夢が壊れていくような気がしていました」 1~3月の収入はゼロ。逸失した売り上げはおよそ500万円にのぼる。