2025年の干支はヘビ 「豊饒の神」なのに「目が合ったら一族滅亡」ってどういうこと?
山神、水神から、やがて田の神へ
いずれにしても、〈日本におけるヘビ神の性格は複雑で多岐にわたり、そのいずれが基底にあるのか判じがたい〉ようです。 〈吉野はヘビ神の山神・水神・農耕神・歳神・海彼神・祖先神などの諸側面をあげ、なかでも祖先神としての性格に重きをおいているように思われる。阿部は、それが基本的には大地母神であるとしながらも、やがて死を管理する神、(鉄)剣神・水神・雷神としての諸性格が派生したと主張している。 しかし『古事記』(712年)・『日本書紀』(720年)・『風土記』(8世紀前半)の伝承が形成された時代、日本人の生活にもっとも深くとけこんでいた自然神は、さきに述べたとおり山神であったと思われる。もちろんその動物形態の化身はヘビには限定されず、イノシシ・シカ等も広く信仰されていただろう。 ヘビ神のさまざまな神格は、大ざっぱに言えば山神の展開形態とみることができるが、ヘビはとくに水を支配下におさめ、水田耕作を保護する方向に転じていった。水界の支配について言うと、第一に、海彼のワニ神が陸封されてヘビ神に吸収された(中村禎里『日本人の動物観』)。さらにヘビはウミヘビ崇拝との混交(谷川健一『神・人間・動物』)や中国の竜イメージとの結合に助けられ、そしてもともと湿地を好む習性とあいまって、水神としての属性を強力に同化していったのだろう。ヘビと川および稲妻との形態上の類似が、この同化作用をさらに促進したのかも知れない。 とはいえ、以上はヘビが水神でありえたことの説明にはなるが、水神がヘビであることの説明としては役だたない。なぜなら、たとえばサカナ類はヘビよりもはるかに水に縁がふかい。しかし彼らは陸にあがることができない。水田をも勢力範囲に収めねばならない水神は、水に住んだままでは失格であろう。彼には陸のうえで水を処理する能力が問われる。〉
豊饒の神としてのヘビ
〈すこし脱線したが、脱皮再生への注目と男根への連想をあわせて、山神としてのヘビは豊饒神でもあり、焼畑農耕をも保護の対象としていた。この豊饒神としての一面があらたに身につけた水の支配力と結合し、ヘビは田の神として登場する。ただし、『古事記』・『日本書紀』・『風土記』説話の形成期においては、日本の農業で焼畑農業が占める比重が圧倒的に大きかったのではないだろうか。〉 * * * 豊饒神だけじゃないヘビのもうひとつの相貌が明らかになる続篇は「ヘビ神は「死の管理人」? 2025年の干支の恐るべき‟もうひとつの顔”を覗いてみた」で!
学術文庫&選書メチエ編集部