自動車会社の決算書の読み方教えます
悪循環入りか好循環かの分水嶺に来ている
ディーラーが見込み発注した分が過剰在庫になれば、それまでの玉不足から一転、過当な販売競争へと変わる。ここでプレッシャーに負けた販売店が値引きを行うと、全体としてメーカーの販売奨励金(インセンティブ)が膨らみ、決算に悪影響を及ぼす。さらに言えば、新車の値引きによって、ユーザーの手元にあるクルマの査定価格が下がる。常識的に言えば、正規ディーラーにしても町場の買い取り店にしても、仮に未走行の新古車であったとしても、新車より高い価格で下取りや買い取りをすることはないので、新車が大幅値引きされればそれはストレートに中古車価格の下げ圧力になる。 これはユーザーの資産価値を毀損する。下取りの価格が安くなれば次回の買い替え原資が減る。さらに、メーカーのブランド価値も毀損する。非常に悪い循環の入り口である。 24年3月期、そして今期(25年3月期)は、「非常に悪い循環」に陥るかどうかの分水嶺にある。よろしくない流れの芽が出ていないか。過剰供給→値引きという流れに注意してチェックするのは、今回の決算読み解きのポイントの一つになる。そして、この4月から始まった今期の推移を注意深く見守っていかなくてはならない。 ではこれがうまくいっているケースではどういう形になるかと言えば、生産回復によって台数が伸び、そこで値上げを行ったり、値引きを抑制できたりすれば高い利益率を維持できる。結果として台数と構成(=利益率の高い車種の比率)が共に伸び、大きな利益をたたき出すことになる。 それを可能にするのは何か、そしてそれは決算書から読み解けるのか? もちろんだ。 例えばトヨタ自動車(以下トヨタ)は24年3月期の決算で「値上げの影響はプラス1兆円」とアナウンスしている。うがった目で見ると、「ぼったくっている」という評価になるが、トヨタは常々「商品を選ぶのはユーザー。価格の決定権はトヨタにはない」と言ってきた。仮にトヨタが自社の都合で好き勝手に値上げしたとしても、高いと思えば客は買わない。値上げをした商品を客が買うのは、値上げにふさわしい分、製品が良くなっていると思い、満足しているからである。 ユーザーの満足がなければ、決算書の形は「値上げの割高感で販売台数が減る」形になる。これは地域ごとの販売奨励金と台数をチェックすると分かる。裏返せば、値上げをしたにも関わらず台数が増えているとすれば、高付加価値化、ブランド化がうまくいっている、ということになる。 詰まるところ、大事なのは価格に見合った製品の良さである。これをチェックする際に注目すべきなのが、「連結営業利益増減要因」だ。以下トヨタの例を見てみよう。 左端のグレーの柱が前期の実績。右端の赤い柱が当該期の実績だ。その間に階段状に項目ごとの上げ下げが図示される。これを左端から順に説明する。 左端と右端の高さの差。つまり営業利益は23年3月期に対して2兆6279億円増えており、「為替変動の影響」は内6850億円で全体の約4分の1である。これはすでに説明した通り。 次いで「原価改善の努力」がプラス1200億円だが、実は資材高騰のマイナス2650億は先に述べた「円安による原材料価格の高騰」によるもので、サプライヤーと共に製造方法のカイゼンを積み重ねた「原価改善」では空前の3850億円を達成してオフセットしている。トヨタでは毎年の原価改善目標を3000億円に置いているが、それを大きく超えたからこそ1200億円のプラスに押し戻せた。 さて次、ここが当該期決算の最大の見せ場。「営業面の努力」である。