「俳優が社会問題を直接語るのは難しくても……」磯村勇斗が映画を通じて描く未来
脚本を手にした瞬間、磯村は強烈な印象を受けた。 「彩人が家族の重荷を抱えながらも、社会の圧力に押しつぶされそうになりながら、必死に生き抜いている姿が頭から離れませんでした」と振り返る。 物語の進行とともに、彼の運命が悲劇的に変わり、それでもその意志が家族や友人に受け継がれていく展開にも強く心を打たれたという。 「演じることは苦しく、大きな挑戦でしたが、それでもこの役を引き受けるべきだと感じました」。 磯村は、現代社会の中で感じる不安や葛藤を、彩人というキャラクターに重ねた。「今の社会に対する自分自身の感情が、彩人の姿と重なったんです」と語る。 彼は言葉にしづらい複雑な感情を繊細に表現し、彩人にさらなる深みを与えることで、物語に力強さをもたらした。
リアルに描かれた「生きるための必死さ」
彩人というキャラクターを構築するために、磯村は実際に認知症の家族を介護する際の精神状態がどういったものなのか、当事者の方のお話を聞く機会があったという。 家族の絆の強さだけでなく、その裏に潜む脆さや葛藤にも触れ、「どんなに愛情があっても、限界がきてしまう瞬間がある。家族の崩壊はいつ起きてもおかしくない」という現実を実感したという。 「自分も理不尽な経験をしたことがあるので、彩人の葛藤や、家族のために自分を犠牲にする姿を自然と投影することが出来ました」。 磯村の人生経験が、彩人というキャラクターを作り上げる上で大きな影響を与えていることが伺える。
撮影現場でも、磯村はその感情を全身で表現した。寒風が吹き荒ぶ中、冷たい空気を体に感じながら、彩人の抱える孤独や苦悩をリアルに体現。 「寒さすらも演技の一部でしたね」と笑顔で振り返りながらも、彼は極限まで自らを追い込み、彩人の「生きるための必死さ」を鮮明に描き出した。
現代社会への危機感
また、磯村が特に共感したのは、内山監督が描いた「見過ごされているものたち」の存在だ。現代社会では、SNSや情報の氾濫によって本当に重要なことが見逃されがちな時代。 「表面的な部分だけを見て理解した気になってしまうことは僕自身もあることです。本質を捉えた気になってしまうことが問題のひとつだと感じます」と危機感を露わにし、「僕たちは今、見て見ぬふりをしていることが多すぎると思うんですよね」とも続ける。