甲子園と一体だった男、藤本治一郎「甲子園の土」/ベースボールマガジン
グラウンドの強敵は雨です
グラウンドの強敵はなんといっても雨です。雨の場合は砂を敷くことができません。多量の砂を入れて試合をするのはいいのですが、翌日晴れたときなどグラウンドは砂原と化してしまいます。雨のために土と砂が分化されてしまうからです。 また、グラウンドは水が生命です。土に水分がないといけませんし、多過ぎても困りものです。ゲームがシングルの場合など、いつもコンディションをよく整えておくことができます。4時ごろ水を打っておれば、試合開始の7時ごろから終了まで文句を言わせなくてもいい状態にしておけます。 ダブルの場合、午後1時に1回、3時に2回目を打っておくと、まあまあの状態です。しかし、この散水なども高度の技術が必要です。その日の天気、温度によって違いますし、もう一つむらなく打つ、これが絶対の条件です。 その点、一番困るのは高校野球です。春は雨、夏は日照り、それもナイターではありませんので、コンディションの持っていき方が違って、とても難しくなります。 大事な試合にボコボコなグラウンド状態で負けたとなれば、私たちも責任を感じないわけにはいきません。それでも文句を言わない若い人たちをかわいそうだと思うほかすべがないのです。 それでも勝ったチーム、負けたチームがグラウンドの砂をすくって袋の中に入れて、ニコニコしながら去っていくのを見ると、自分のことのようにうれしくなるものです。 甲子園にいる私たち整備員はほかの球場の方たちより少しばかり違った作業をします。ナイターの始まる春はグラウンドをいくぶんか白く──、白くというのは黒土に砂を多く混ぜるということです。そして高校野球の春、夏の大会には黒くせねばいけません。砂を少なくし、黒土をより多く入れることです。 黒く、白くといっても口でいうほど簡単ではありません。トラック何台分という砂土を混ぜるのですから、お察しいただけると思います。 文句といえば、プロの選手はイレギュラーなどで球をそらすと、ずいぶんとお小言を頂戴しますし、球場関係者、球団社長などからも言われます。万全の態勢にしていても、やはり落としはあるものです。 グラウンドというものは手を入れれば入れるほどよくなりますし、カネをかければ相応のものができます。しかし、これで十分ということはないものなのです。
週刊ベースボール