ツェッペリン伯爵号が飛来、全長235メートル「巨大な鯨」 霞ケ浦航空隊に着陸 いばらきの昭和100年(上)
■夢のような乗船体験
ツェッペリン号を降りた一行は、格納庫の隣に張られた天幕の中で海軍自慢のカレーなどを振る舞われた。
その後、乗客は東京のホテルへ向かい、エッケナー博士ら乗員は土浦の割烹「霞月楼(かげつろう)」で航空隊主催の歓迎会に出席。日本料理に舌鼓を打った。にぎやかな宴席をそっとのぞいていたのは、隣の姉妹店、日新楼でツェッペリン号を見物していた恒二だった
やがてトイレから戻ってきた顔見知りの航空隊副官に声をかけられた。「おお、坊主いたのか。ツェッペリン号に乗ってみるか?」。思わぬ誘いに恒二は大きくうなずいた。
当時はまだおおらかな時期で、航空隊には一般人も出入りでき、ツェッペリン号見たさに連日約30万人が押し寄せていた。翌20日、約束の正午に恒二が航空隊の格納庫前へ赴くと、「おーい、こっちだ!」。副官に迎えられ、あこがれの飛行船へついに乗り込んだ。
船内のあちこちを見て回り、大きな調理場に「(日本の)板場と同じだな」などと感心していると、副官は用事があったのか急に姿を消した。「このまま外国へ連れていかれたらどうしよう」。不安にかられていると、ふいにカメラを持った外国人の男性記者が現れ、恒二の写真を撮り始めた。
はにかんで食堂の柱の陰に隠れていると、副官がようやく戻り、船外に出られた。ハラハラドキドキの大冒険を終えた恒二は、このあと生涯ツェッペリン号とかかわることになる。(文中敬称略)
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昭和100年の節目に当たる令和7年、時計の針を巻き戻し、茨城県内でかつて起きた出来事やニュースを関係者の証言や資料などをもとに再現します。(三浦馨)