ガンバ宇佐美を覚醒させる名参謀の存在
宇佐美が追い求めるオフ・ザ・ボールの動きにも、長谷川健太監督とともに和田コーチはキャンプの段階からヒントを授けてきた。世界のトップ選手のオンとオフの動きを編集した映像を宇佐美に用意し、イメージトレーニングを通じて意識改革に取り組ませた。宇佐美が振り返る。 「ネイマールやメッシ、カバーニ、ジェコといった選手の動きを教材として見せられました。監督や和田さんからは『彼らのいい動きをイメージとして持っていてほしい』と言われてきました。これまでも駆け引きというものを考えてはいましたけど、なかなかゴール前でフリーになる動き出しというものができなかった。オン・ザ・ボールの動きだけに頼り続けてきたなかで、ホントに新しいことを始めている状況なので。その始めの段階でオフ・ザ・ボールの動きで勝てた。まだまだ手探りの状況ですけど、自分にとってはすごく大事な1点ですし、これからも引き続き追い求めていきたい」 昨年のいまごろは左腓骨筋腱脱臼で全治8週間の重傷を負ったばかりで、失意のどん底にいた。胸中にひそかに抱いてきたワールドカップ・ブラジル大会への滑り込み招集を逃したばかりか、トップフォームを取り戻すのに5カ月近くの時間を要してしまった。 今シーズンはACLに挑む分だけ、他のクラブよりも早い仕上がりを自らに課してきた。24日に行われた広州富力(中国)とのACLグループリーグ初戦を落とし、中3日でレッズ戦に臨み、試合後には城南(韓国)とのACLグループリーグ第2戦のために敵地へ飛び、7日にはJ1開幕戦でホームの万博競技場にFC東京迎える。J1の開幕前から余儀なくされている過密日程を、宇佐美は笑顔で歓迎する。 「クオリティーを見れば、個人としてもチームとしても去年の一番いいときに比べればほど遠い。個人的には去年のけが明けもこういう状態でしたし、何試合かこなしていくなかで大きな手応えとして得られるくらいにコンディションが上がっていった。だからこそ、短いスパンで試合ができるのはありがたい。このままじゃいけないという危機感がある一方で、こういう状態でも試合に勝てる勝負強さというものがチームについてきているのかなとも思う」 新監督のもとで再編される日本代表に関しては「まだまだ」と素っ気ない。心技体を極限まで突き詰めていったさきに代表へ通じる扉が開いていると、アギーレジャパン時代と縁遠かったときから自らに言い聞かせてきたからだ。 「僕個人のプレーとしては、まったく満足できるレベルではないので。今日もあと1点決められるチャンスがありましたからね。ただ、ここで(ACLに続いて)連敗していたらネガティブな雰囲気になっていた。その意味では、FWとして点を取ることでいい流れを作れたと思う」 新境地を開くきっかけとなるゴールに、喜びと手応えを感じるのは一瞬だけ。22歳にしてエースの称号を背負う男はどこまでも貪欲に未来を見すえている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)