「憲法第九条は日本人がつくった」…すでに否定された「神話」が今でも支持されるワケ
『東京新聞』と幣原発案説
近年幣原発案説を強く主張しているメディアが『東京新聞』です。『東京新聞』はたびたび幣原発案説を支持する社説や記事を発表していますが、とくに重要なのが2016年8月12日の記事であり、これは、教育学者の堀尾輝久(1933~)がマッカーサーと憲法調査会の会長であった高柳賢三(1887~1967)との往復書簡を「発見」したというものです。 憲法調査会とは1956年から64年まで活動した組織であり、その目的は日本国憲法に検討を加えること、関係する諸問題を調査して内閣に報告することでした。その活動の中で憲法第九条の制定に至る経緯も調査されたのです。 そこで当時の調査会会長であった高柳が、マッカーサーに宛てて憲法第九条の発案者であるかどうかを確認したところ、マッカーサーが幣原による発案であると書簡で証言したのです。この書簡はすでに研究者に知られていましたが、堀尾はこの「原本」を国立国会図書館憲政資料室で「発見」しました。 この「発見」が『東京新聞』によって大々的に報じられると、幣原発案説を証明する新史料が見つかったかのような印象を社会に与えることになりました。現在でもSNS等で検索すると、この『東京新聞』の記事を引用して、幣原発案説が証明されたとする主張を見つけられます。 しかし、この書簡で幣原発案説が証明されたというのは早計です。マッカーサーが「憲法第九条は幣原の発案である」と主張したことは有名ですが、その証言にはかねてから疑問や批判があります。書簡の内容はマッカーサーの従来の主張を確認したものにすぎず、決定的な証拠とはいえません。書簡の内容についても批判的な研究が存在しており、新発見でもなんでもありません。 にもかかわらず、『東京新聞』はあたかも「原本」の「発見」によって幣原発案説がより有力になったかのような誤解を与える報道をしています。『東京新聞』の報道はミスリードといえます。また、書簡の内容に批判的な意見があるという事実を報じていません。『東京新聞』は護憲の立場を優先するがあまり、事実を正確に伝えるジャーナリズムの役割に反しているというべきでしょう。