オフィス復帰をめぐり企業と労働者の間で乖離する理想の働き方、注目の〝coffee badging〟という新たな対抗手段
テック業界を中心に、2024年度から多くの企業が「オフィス復帰(RTO: Return to Office)」を従業員に義務付ける動きが広がっている。 【グラフ】現在「ほぼ毎日、出社している」ビジネスパーソンの割合は?調査結果をグラフで見る!
企業と労働者の間で乖離する「理想の働き方」。今〝coffee badging〟という新たな対抗手段が生まれている
9月にはAmazonのJassy社長が来年1月から週5回のオフィス勤務を社員に義務付けることを発表し、大きな批判と議論を呼んだ。 企業側の主張としては、対面での業務の方がコラボレーション、イノベーション、生産性の向上を促すとしているが、リモートワークの快適さに慣れてしまった社員やオフィス勤務するために移住をしなければならない労働者たちは理不尽なポリシーの変化だと感じてしまう。 そもそもオフィスで働いている時だって一日8時間、しっかり働いているわけではなく、そのうちの多くの時間はぼんやりしていたり、仕事をしているフリをしたりする時間だって多いのに、リモートワークのままでは社員が働かない、という企業の主張は現実的ではないという批判もある。そして今、RTOの広がりを受けて話題になっているのが、「coffee badging(コーヒーバッジング)」という新たな対抗手段だ。 コーヒーバッジングとは、オフィスに短時間だけ滞在することで出社記録をしっかり残し、実際の勤務はほとんど行なわないまま退社する行為(要はコーヒーを飲むためにオフィスに出社し、すぐ退社する行為)を指す。 これによってRTO要件を形式上はクリアでき、「まるで中学生のようにオフィス出社をバッジシステムによって監視されている」ことを不満に思う社員たちにとってはある種の抵抗手段にもなっているのだ。 Amazonは現在、従業員に週3日以上の出社を義務付けてから1年以上が経過し、このような「コーヒーバッジング」を利用する従業員が増加していることから、オフィスでの滞在時間の管理をさらに強化しているそうだ。しかし、この新たな規制は従業員の間で強い反発を招き、「過剰な管理」として批判されている。 こういった〝やりすぎ〟にも感じられるようなAmazonの方針は、社員のモチベーションの低下や労働条件を好ましく思わない人たちによる離職率の増加を引き起こす可能性があると懸念されている。 しかし同時に、何としてでもFAANG系(※)の会社に就職したいと考える人もあとが絶えないため、それほど人材には影響が及ばないのではないか、とも言われているのも事実だ。 テック業界全体で進行するオフィス復帰の動きは、Amazonに限った話ではない。今や他の業界にも波及し、企業文化に大きな影響を与えつつある。リモートワークがそれほど普及していなかった、2020年以前のオフィス勤務スタイルよりもさらに厳しい管理を加えるような会社も増加し、「ノーマルへの復帰ではなく、後退だ」というストレスや不満の声も頻繁に目にする。 コロナウイルスによるロックダウン以降、ワークライフバランスを多くの人が見直した。だからこそ、仕事の中での自主性や選択できる働き方の減少とも見えるこのRTO問題は、抵抗感や議論を巻き起こしやすいのだ。 もちろん、対面でチームとオフィスで空間を共有することによってコミュニケーションがスムーズにでき、フェアな労働の分配がしやすいと考えるようなRTO支持派の人もいる。 アメリカ社会ではロックダウンから4年以上が経ち、オフィスカルチャーというものがまるで元通りに戻ったかのように見える。だが、実際には仕事に対する価値観がアップデートされた今、企業が思う「理想の働かせ方」と社員が思う「理想の働き方」とはどんどん乖離が生まれているのかもしれない。 文/竹田ダニエル ※FAANG:米国のテック企業大手である、フェイスブック(Facebook、現メタ・プラットフォームズ)、アップル(Apple)、アマゾン・ドット・コム(Amazon)、ネットフリックス(Netflix)、グーグル(Google)の頭文字を組み合わせてつくられた造語。 竹田ダニエル●竹田ダニエル|1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行ない、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』(講談社)を上梓。そのほか、多くのメディアで執筆している。
@DIME編集部