「キャンパスなんて狭い。オンラインで越境を」――「コロナ世代」の大学生に、上野千鶴子が伝えたいこと
「あなたたちも変えられるよ」と言いたい
世界経済フォーラムが発表している「ジェンダー・ギャップ指数」で、世界153カ国中、日本は121位。まわりはどんどん変わっているのに日本に変化がないせいで、取り残されちゃったというのが現状です。先日の森発言でも、多くの女性たちは「またか」「日本、変わらないな」と無力感を持ったと思います。ところが今回、そのままでは収まらなかった。世論が押し返したんです。この成功体験はきっと力になるでしょう。 女性学を立ち上げ、いろいろなことをやってきて、うまくいかなかったこともうまくいったことも、両方あります。小さい成功体験でも、積み上げれば変化が起きます。「お茶汲み」論争を知っていますか。均等法で女性総合職が初めて職場に入ってきたとき、お茶汲み当番をやらせるかどうか、議論されました。当番から外すと他の女性社員から浮くし、入れたら入れたで「時給の高い女をこんなことに使うなんて」と。今から思えば笑い話みたいですが、そういうことを、職場の人たちが真面目に議論していた時代があったんです。でも職場は変わりました。今はセルフサービスが主で、女性社員のお茶汲み業務はなくなりましたが、代わって非正規雇用の女性たちがもっぱらお茶汲みをやらされるようになったようですね。
そういう変化は、勝手に変わってきたんじゃない。私たちが変えてきたんです。だから、若い世代には「あなたたちも変えられるよ」と言いたい。 最初はいつも直感からのスタートです。「これ何かおかしくない?」「ヘンだな」「むかつく」、あるいは「あ、これ好き」とか。それから、「じゃあ、なんでむかつくんだろう?」と腑分けしていくわけですよ。これが学問。感情とは分節される前の知性です。怒りはエネルギー源になります。 腑分けして「こういう理由や背景があるんだ」、そして「これはどう考えても不合理だし、不公正だ」と分かってきたら、それを相手にはっきり分かるように伝える。残念ながら、相手の言葉で、相手に分かるように伝えないと伝わらない。例えばアメリカを批判するのに、日本語で書いたってアメリカ人に伝わりません。私は自分のことを、オッサン語と女言葉の通訳だったと思っています。 理論武装と言語表現力、使える武器を身につけてください。そのために、学問はとても役に立ちます。 --- 上野千鶴子(うえの・ちづこ) 1948年、富山県生まれ。1977年、京都大学大学院社会学博士課程修了。社会学博士。現在、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長、東京大学名誉教授。近著に『在宅ひとり死のススメ』がある。