「キャンパスなんて狭い。オンラインで越境を」――「コロナ世代」の大学生に、上野千鶴子が伝えたいこと
「がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています」。2019年4月、東京大学の入学式で上野千鶴子名誉教授が述べた祝辞が、インターネット上で拡散された。東京医科大学の不正入試問題や大学内のジェンダーギャップを指摘しながら、予測不能な世界を生きていく新入生へエールを送り、大きな話題に。あれから2年、新型コロナウイルスの感染拡大により、大学生活は一変した。2021年の今、これからの新入生、大学生へどんな言葉をかけるだろうか。「越境したらいいんです。世界は広いんだから」。生き抜くために、身につけるべきものとは。(取材・文:塚原沙耶/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
なぜ、学校の中で完結しなきゃいけないのか
コロナ禍の大学生はキャンパスライフを経験できず、アルバイトなど就労の機会も奪われました。こんな時代にぶつかってしまったのは、本当にかわいそうだと思います。でも、学生に限らず、非常に多くの人が接触と経験の機会を奪われています。 オンライン化が一挙に進んだのは、教育にとってすごくいいことだと思います。現役の教員はオンラインでコンテンツを用意しなければならず、負担が増えて大変な思いをしているようですが、大学も教員も「できない」とは言えません。 勉強したい人にとって、オンライン化はむしろ学ぶ機会を増やすチャンスです。今、世界中の大学が講義の一部を公開したりしています。その気になれば、分野も国境も越えて、いろいろなコンテンツをゲットできる環境です。それに少人数で行うミーティングもオンラインで行いやすくなり、現役の大学教員をやっている友人から、ゼミなどは以前より発言が活発で充実しているとも聞きました。
大学は教育産業ですから、教育というコンテンツが大学の一番大きな商品。仲間と一緒に過ごせるとか、刺激をもらえるとかいうキャンパスライフはその「フリンジ・ベネフィット(周辺利得)」です。「4年間青春した」みたいなことばかりが評価され、教育のコンテンツが重視されなかったのはおかしな話です。 それに、キャンパスなんて狭い世界。その枠を外したほうが、もっと裾野が広くなります。今は、オンライン化で、学籍も地域も国境も、あるいは分野も、ボーダーを越えられる。これはチャンスだと思います。私はよく学生に「“もぐり”でどこへでも行きなさい」と言ってきました。どこに在籍していようとも、学びたいものを学びに行ったらいい。日本の大学の3割近くが1都3県に集中していますから、これまでは東京近辺の学生が有利でした。今なら、どこにいても世界中の教育コンテンツが受信できます。オンラインは道具。この道具が広がって困ることはありません。 障がい学生にとっても、授業を受けるハードルが下がりました。家で寝たきりの状態でも授業を受けられますし、字幕機能があれば、聴覚障がいの学生も理解しやすい。確実にチャンスは広がっていると思います。 そもそも学校というのは閉鎖空間です。子どもを長時間、いわば幽閉しているわけです。中高生の部活動だって、学校単位でやらなくてもいいと思う。地域のスポーツクラブや大人も参加する文化活動に子どもが参加してもいい。なぜ、何もかも学校の中で完結しなきゃいけないのでしょう。学校という空間の中で、勉学からレジャー、恋愛まで、全てのことを完結する必要なんてありません。越境したらいいんですよ。世界は広いんだから。