井上岳志が米国世界初挑戦に大差判定負けも次世代ホープ苦しめ爪跡残す「世界は遠くなかった」
ボクシングのWBO世界スーパーウエルター級タイトルマッチが26日(日本時間27日)、米国テキサス州ヒューストンのトヨタセンターで行われ、挑戦者で同級3位の井上岳志(29、ワールドスポーツ)が王者のハイメ・ムンギア(22、メキシコ)に0-3の大差判定で敗れ、38年ぶりとなる同級の正規ベルトの獲得はならなかった。 井上は、KO率84%のムンギアに対して果敢に前に出て連打を浴びせる戦法を徹底したが、足を使われ多彩なパンチと手数でポイントを積み重ねられた。判定は意外な大差がついたが、右のフックが何度も当たるシーンもあり、ポイント差以上に次世代スター候補のムンギアを苦しめた大善戦。 「命を賭けて挑んだ」という井上のスプリッツと、そのタフネスぶりは世界で通用することは証明した。井上は15戦13勝(7KO)1敗1分けとなった。
怒涛の前進と右フック
試合後の花道。 勇敢なる敗者をめがけてファンが殺到した。サインを求め、写真撮影を願う地元ファンが後をたたず、井上は、なかなかロッカーに戻れなかった。 「ちょっとは認められたのかな……ボクシングをやっていてよかった」 現地ファンの正直な反応が、この試合のすべてを物語っていた。 ブックメーカーの大手「ウィリアムヒル」の試合前オッズはムンギア1.02倍、井上が16倍と厳しいもの。テキサス・ヒューストンは、ヒスパニック系のコミュニティが多くムンギアにとっては、ほぼホーム。ミドル転向が話題となり、カネロ二世、怪物と呼ばれるKO率84%の次世代ホープが、早期KO決着どころか、肩で息をして12ラウンドを終えたのである。勇気ある前進を続けたのは井上の方。 ジャッジの採点は2人が120-108、1人が119-109の準パーフェクト採点となったが、NBAロケッツの本拠地を埋めた1万人以上の観衆は、そうとは受け取っていなかったのである。 リングに登場した井上は笑っていた。 「向き合ったときにムンギアがすごく不安そうな顔や仕草をしていたのがわかったんです。逆に僕はワクワクした気持ちになって。楽しかったんです」 夜叉の微笑み。井上は名前をコールされると「オオー」と吼えた。それがムンギアを一歩ひかせたのか。 王者はステップを踏んできた。足を使いながら左ジャブ。井上は名詞代わりの右のオーバーハンドフックをお見舞いした。そのまま突っ込んでムンギアをロープへ押し込む。齊田竜也会長が「女郎蜘蛛作戦」と名づけた超接近戦である。 緊張の1ラウンド終了後に齊田会長が言う。 「やることは全部はまっている。しっかりとガードして」 右を振って、その勢いのままロープを背負わせて連打。考えてきたムンギア対策である。くっついて強引に殴りつける右が、しばしばムンギアの後頭部付近を襲い、王者は「反則だ!」とアピール。レフェリーがしばしば注意した。それほど井上の超接近戦は迫力に満ちていた。 だが、2ラウンドに早くも右の目の上をカット。早期決着の多いムンギアだが、慎重に距離をとりながら、ジャブ、ワンツーを主体に軽いパンチをどんどんと浴びせてくる。強弱がムンギアの持ち味だが、3ラウンドには左ボディを3連発。ムンギアの得意ブロー。井上は「うっとなったタイミングもあったんですが、そこまでのダメージはなかったんです」と言う。 井上の怒涛の前進は止まらない。 米国のボクシング専門サイト「ボクシング・シーン」の独自採点では、4ラウンドまでドローだった。