総長のビュイックで練習し、運転免許を取得!?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第30回
テストコースでの疲労実験は、失敗に終わる。
長山先生:そうです。1963年(昭和38年)に名神高速道路の一部(栗東―尼崎間)が開通し、日本の高速道路の時代が始まりましたが、1965年(昭和40年)に小牧―西宮間で名神高速は完成しました。その後1969年(昭和44年)に東名高速道路が全線開通することで東京―西宮間の高速運輸時代が始まりました。長距離バスやトラックの営業が始まり、一般車も長距離ドライブをするようになったため、高速道路を連続走行する際、何時間ごとに休憩・休息を取ることが必要なのか、研究しておく必要があったのです。 編集部:なるほど。よく「2時間ごとに休息を」と言われますが、その基準づくりの実験だったのですね。 長山先生:そうです。ダイハツの竜王テストコースを借りて連続走行疲労実験を行ったのですが、オーバルコースを使ったため、実験はうまくいきませんでした。時速80kmを維持して走行するには、バンク角が40度くらいのところを選んで走らなければならず、バンクが付いたコースを走行すること自体で緊張が強く、それが疲労の原因になってしまったのです。 編集部:私もバンクの付いたオーバルコースを何度か走ったことがありますが、ふだんあのような角度が付いた路面を走ることはないので、初めはとても怖かったです。慣れればハンドルを切らなくても一定の速度で周回できるので楽なんですけどね。 長山先生:おっしゃるとおりで、テストドライバーならともかく、ふつうの職業ドライバーや一般のドライバーの場合、バンクを走るだけでクタクタになってしまうようです。私は試しに数周走っただけなので、緊張感より強烈なカントがついたコースを走れたことの新鮮さや満足感のほうが大きかったです。なお、テストコースでの実験は失敗しましたが、その後、名神高速道路の茨木インター~彦根インター間を3往復することによって東京―大阪間の走行をシミュレーションできることがわかり、名神高速道路での連続走行実験を実施しました。 『JAF Mate』誌 2017年8・9月号掲載の「危険予知」を基にした「よもやま話」です。 大阪大学名誉教授 【長山泰久】 1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。1991年4月から2022年7月まで、『JAF Mate』誌およびJAF Mate Online(ジャフメイトオンライン)の危険予知コーナーの監修を務める。2022年8月逝去(享年90歳)。
話= 長山泰久(大阪大学名誉教授)